個人事業主の破産は同時廃止になりにくい|理由を徹底解説


個人事業主が経営不振に陥り、やむを得ず自己破産する場合、基本的に同時破産ではなく管財事件になります。
ただ、管財事件より同時廃止事件の方が費用と時間が抑えられることが見込まれます。そのため、破産申立人としては、同時廃止事件になる方が望ましいと言えます。
この記事では、何故管財事件になってしまうのか、など個人事業主の自己破産についてご紹介します。
個人事業主の破産は同時廃止になりにくい
「同時廃止」と「管財事件」の2つは、破産者の財産を換価・配当するための「破産管財人」が選任されるか否か、という点が大きな違いです。
ここでは、同時廃止になりにくい理由とともに、同時廃止になるケースについてご紹介します。
同時廃止になりにくい理由
なぜ、個人事業主の自己破産は同時廃止事件になりにくいのでしょうか。それには、破産管財人の役割が大きく関わってきます。
破産管財人は主に、破産者の財産や破産へと至る経緯、免責不許可事由の調査や利害関係者の調査などを行います。
そのため、破産管財人を選任するための財産が無いほど経済的に困窮していることや、免責不許可事由に該当しないことが明らかである場合には、裁判所は基本的に同時廃止を選択します。
個人事業者の場合、事業者としてさまざまな財産や権利を有していることが多いため、破産管財人による詳細な調査が必要です。そのため、原則として破産管財人が関与する「管財事件」として破産手続きが進行することになります。
個人事業主の破産が同時廃止になるケース
ただし、個人事業主の破産の全てが管財事件となるわけではありません。個人事業者の場合であっても裁判所の判断で同時廃止事件となることもあります。
例えば、アフィリエイトサイトの経営など在庫もなく、かつ取引関係も単純であるような場合は、破産管財人による調査を行う必要が少ないため、同時廃止が認められる可能性があります。
ただ、法律に詳しくない方にとっては、自分の事業が同時廃止となるかどうか判断することは容易ではありません。法律の専門家に相談し、適切なアドバイスを求める事が大切です。
個人事業主の自己破産にかかる期間と費用
実際に個人事業主が自己破産を選択した時にかかる費用や時間について説明します。
個人事業主の自己破産にかかる期間
同時廃止事件であれば破産手続きは3ヶ月前後と比較的短期で終了します。他方、管財事件の場合は権利関係の調査や財産関連の調査がより厳密に行われますので、半年以上と比較的長い期間がかかります。
また、管財事件の場合、財産の分配や利害関係者の意見を聞く「債権者集会(※)」も開かれますので、やはり時間がかかります。
- 債権者集会(さいけんしゃしゅうかい)
- 債権者集会とは、債権者(貸金業者などお金を貸している側)に対し、破産手続きに関する情報を開示したり、財産の配分を決めたりする集会です。裁判官と管財人の立会のもと、裁判所で行われます。
個人事業主の自己破産に必要な費用
自己破産の申立を行うためには、さまざまな費用が必要になってきます。この裁判所に納める費用の事を「予納金」と呼びます。
予納金において代表的なものは以下4つです。
- 収入印紙
- 郵便切手費用
- 官報掲載費用
- 管財費用
② ③に関しては、数千円程度なので特に問題にはなりませんが、注意しなくてはならないのが、破産管財人の報酬となる④の「管財費用」です。
この管財費用は、管財事件の際に必要となる費用であり、その金額は負債額(借金残高)によって異なります。
以下では、法人として自己破産を申し立てた場合の費用と個人として申し立てた場合の費用の目安を示します。
なお、現在では弁護士を通して自己破産を行うことで「少額管財」と呼ばれる申し立てが多くの裁判所で認められるため、最低20万円あれば、申し立てを行うことができます。
法人として申立てた場合の管財費用(東京地裁のケース)
- 負債総額5,000万円未満・・・70万円
- 5,000万~1億円未満・・・100万円
- 1~5億円未満・・・200万円
- 5~10億円未満・・・300万円
個人として申立てた場合の管財費用(東京地裁のケース)
- 負債総額5000万円未満・・・50万円
- 5,000万~1億円未満・・・80万円
- 1~5億円未満・・・150万円
- 5~10億円未満・・・250万円
弁護士に依頼した場合の弁護士費用
個人事業主が弁護士に依頼した場合、少額管財となるため、最低でも20万円の金額を裁判所に納めなければなりません。
それとは別に、弁護士に依頼する際に支払う「着手金」が必要になります。
着手金の金額は依頼する弁護士事務所や事業の規模、依頼内容によって異なりますが、30~60万円程度が相場だとされています。
相談すれば分割払いに応じてくれる弁護士事務所も多いので、弁護士に相談してみるとよいでしょう。
破産中や破産後も事業を続けられるか?
多くの個人事業者が苦労して事業を展開してきたはずであり、自分の事業が今後どうなるかについては最も関心が向く事項であると言えます。
結論から申し上げますと、破産管財人がほとんどの財産を処分してしまうため、最終的には事業を継続するのが困難となり廃業となるケースが多いです。
ただ、未完の仕事の扱いをはじめ、さまざまな疑問点はあるでしょう。以下では、破産中・破産後の事業の扱いについて説明します。
破産中は原則として事業は中断
破産手続き開始の決定が下されると、個人事業は停止するのが原則となります。
そして、破産者が破産開始の時において有する一切の財産は、すべて破産財団に組み込まれることになります。(破産法第34条)
破産財団とは、「破産者の有する資産」と捉えていただいて構いません。破産財団の管理処分権は、破産管財人がすべて請け負うことになります。
破産が開始すると、破産者が有する事業のために使用する機械や設備などは一切使えなくなります。結果として、破産中に事業を行うことはできなくなります。
破産中に事業を継続できる2つのケース
例外的に、破産中に事業を継続できるケースが2つ存在します。
管財人の判断で裁判所から許可がおりた場合
例えば、破産開始の時点においていまだに終了していない業務や仕事があり、それを完成させた方が収益を得られるといったケースも想定されます。
破産法36条では、以下のように規定しています。
破産手続開始の決定がされた後であっても、破産管財人は、裁判所の許可を得て、破産者の事業を継続することが出来る
引用:破産法36条
裁判所の許可が得られれば、破産者は、破産管財人の監督の下で、再び仕事に取り掛かることになります。
ただし、仕事の完成によって得られた収益は、破産財団へ組み入れることになります。
自由財産(20万円未満)内で事業を継続できる場合
破産手続きにおいては、原則としてほとんどの事業財産は破産管財人によって換価されます。
しかし、すべての財産が処分されてしまうと、その後の生活を続けていくことができません。
そのため、個人や個人事業主の自己破産においては、最低限度の生活を保障するための「自由財産」が認められています。
破産手続きが全て終了した後、機械や設備に頼らずその自由財産(20万円未満)で事業を運営することが可能であるならば、破産後であっても事業の継続は可能だと言えます。
破産後の事業継続は個人の自由
個人事業のケースでは、法人の場合と異なり事業自体は消滅しないため、破産後に事業を継続することは個人の自由とされています。
しかし、現実的には、事業を継続していくのは困難だと言えます。
例えば、破産すれば個人名がブラックリストに登録されてしまうため、新たに個人名義でお金を金融機関から借り入れることはできなくなり、資金繰りが難しくなります。
加えて、破産後は最低限の生活を保障するための自由財産しか認められていません。少ない資金の中で事業を継続するのはかなり困難だと言えるでしょう。
まとめ
通常の破産手続きと異なり、個人事業主は多くの財産やさまざまな利害関係人との関係を持っているため、それを調査するためにも破産管財人が選任されます。
そのため、個人事業主が事業破産を行う際は、多くの場合「同時廃止事件」ではなく「管財事件」の扱いとなります。
個人事業主の場合、破産終了後も事業は消滅しないものの、継続するのが難しいという点もよく理解しておきましょう。

【借金の減額・免除で再スタート!】最短で催促ストップ◆家族や職場にバレにくい解決◆複数社から借り入れ、返済が苦しい等、当事務所へご相談ください【親身に対応◎】【秘密厳守】※個人間の金銭貸し借り・借金以外の一般法律相談に関する問い合わせは受け付けておりません。
事務所詳細を見る
「返済のために借入社数が増えてしまっている…」「借金総額が膨らんでわからなくなっている…」毎月の返済額の負担を軽減し、借金生活をやめたい方◆まずは最適な解決のために無料診断を◆
事務所詳細を見る
【相談実績1000件以上|自己破産を中心に豊富な解決実績】完済の見込みがない/毎月の支払いに限界を感じている方はすぐにご相談を◆1人の弁護士が解決まで責任を持って迅速に対応いたします【相談無料】
事務所詳細を見る当サイトでは、有料登録弁護士を優先的に表示しています。また、以下の条件も加味して並び順を決定しています。
・検索時に指定された都道府県に所在するかや事件対応を行っている事務所かどうか
・当サイト経由の問合せ量の多寡

自己破産に関する新着コラム
-
生活保護受給中でも自己破産手続きは可能です。法テラスの弁護士費用立替制度を利用すれば、弁護士費用の自己負担なく借金を整理できます。生活保護と自己破産...
-
自己破産は借金の返済義務が免除される強力な手続きです。しかし、基本的には弁護士のサポートがなければ、手続きを進めることはできないので、弁護士費用を負...
-
自己破産後はクレジットカードが使えません。ブラックリストに載ることでもともとあるカードは強制解約になり、新規の作成もできなくなるためです。本記事では...
-
無条件で自己破産できるわけではなく、法律で定められた要件を満たさなくてはなりません。本記事では、自己破産ができないケースの具体例や、自己破産できない...
-
自己破産においては、債務者にとって有利なことばかりが起こるわけではありません。本記事では、自己破産のメリット・デメリット、自己破産をするときに弁護士...
-
自己破産をすると、多くの場合で携帯電話が強制解約となります。ただし、利用料金の滞納や分割払いの残債がなければこれまで通り利用できるほか、自己破産によ...
-
自己破産のデメリットには、ブラックリストに登録されることや職業・資格制限を受けることなどいくつかありますが、誤解されることも少なくありません。本記事...
-
自己破産をすると本人名義の持ち家や車などの財産が没収されるなど家族への影響も大きいです。ただし、家族名義の財産は没収されないうえ、将来の結婚や就職な...
-
自己破産は借金を帳消しにできる強力な手続きです。しかし、数多くのステップを踏む必要があるので、どの程度の期間がかかってしまうのか気になっている方も多...
-
本記事では、自己破産を検討している方に向けて、自己破産について弁護士に無料で相談できる窓口、自己破産について弁護士に相談する4つのメリット、弁護士と...
自己破産に関する人気コラム
-
自己破産を検討されている方にとっては、破産後の生活は気になるところでしょう。この記事では、自己破産後に受ける制限や、生活を良くするために考えておきた...
-
廃課金とは、廃人と課金を合わせたネットスラングで、一般的に収入に見合わない金額を課金する人を指します。本記事では廃課金の定義や課金してしまう人の特徴...
-
自己破産では裁判所に支払う費用のほか、弁護士に依頼する場合は弁護士費用もかかります。状況により費用は異なり、弁護士費用は後払い可能な場合もあります。...
-
自己破産は、全ての借金の支払い義務を逃れ、所持する高価な財産を処分する法的手続きであり、生活をゼロから再建するための最終手段です。本記事では自己破産...
-
ブラックリストに掲載される期間はどの程度なのでしょうか。 よく、「ブラックリストに載るとカードが作れない」などという話を聞きますが、そもそもブラック...
-
破産宣告(はさんせんこく)とは何かを解説!手続きの流れや条件、かかる費用に加えて、自己破産を最短で進める為の方法をご紹介していきます。自己破産にはデ...
-
結論からいいますと、借金がある状態でも生活保護を受けることができます。そこで、生活保護と借金の関係を深堀していきたいと思います。
-
自己破産はできる条件があります。これに該当しない場合には自己破産が実現できず借金を免責することができません。この記事では、自己破産ができない4つのケ...
-
自己破産をする上で、破産管財人(はさんかんざいにん)が何をするのか、どのような人なのかを知っておくことで、免責を受けられる可能性が高まります。この記...
-
奨学金を借りたはいいものの、就職後も返済が厳しく破産に追い込まれる件数は1万件にのぼっています。ただし、破産にはリスクがあり、あなたの借金が免除され...
自己破産の関連コラム
-
無条件で自己破産できるわけではなく、法律で定められた要件を満たさなくてはなりません。本記事では、自己破産ができないケースの具体例や、自己破産できない...
-
官報といえば、国の情勢を把握したい人が読むものですが、具体的にどのような内容が掲載されているかご存知ない方が多いのではないでしょうか。場合によっては...
-
借金の返済に苦しみ、うつ病になってしまった。生活費、返済費用、社会復帰など日々の生活と将来への不安でいっぱいで切実な問題ですが、ひとつずつ解決してい...
-
自己破産をする上で、破産管財人(はさんかんざいにん)が何をするのか、どのような人なのかを知っておくことで、免責を受けられる可能性が高まります。この記...
-
カード破産の無料相談先をご紹介します。また、カード破産以外の方法で借金問題を解決する方法や弁護士に依頼した場合の流れも併せて解説します。
-
ブラックリストに掲載される期間はどの程度なのでしょうか。 よく、「ブラックリストに載るとカードが作れない」などという話を聞きますが、そもそもブラック...
-
生活保護受給中でも自己破産手続きは可能です。法テラスの弁護士費用立替制度を利用すれば、弁護士費用の自己負担なく借金を整理できます。生活保護と自己破産...
-
自己破産後に車を所有できるかどうかはケースごとに異なります。この記事ではどういったときに車を所有できるのかについて解説した後に、自己破産後に車をロー...
-
自己破産は借金を帳消しにできる強力な手続きです。しかし、数多くのステップを踏む必要があるので、どの程度の期間がかかってしまうのか気になっている方も多...
-
自己破産の同時廃止を進める全体の流れを把握しておくことで、いざ自己破産する際に何も知らないより安心して申し立てられるでしょう。また、流れを見ることで...
-
個人事業主の破産は基本的に同時廃止ではなく、管財事件になります。ただし、条件を満たしていれば、同時廃止で自己破産することも可能です。この記事では、同...
-
やむを得ず、借金が返せない状況に陥ってしまい自己破産をすることになる方もいると思います。そんな中、家賃の支払いだけを続けていては自己破産の免責の許可...
弁護士・司法書士があなたの借金返済をサポート
債務整理では、債権者と交渉する任意整理や法的に借金を減額する、個人再生や自己破産などがあります。また、過去の過払い金がある方は、過払い請求を行うことも可能です。
ただ、どれもある程度の法的な知識や交渉力が必要になってきます。債務整理をしたくてもなかなか踏み切れないあなたをベンナビ債務整理(旧:債務整理ナビ)の弁護士・司法書士がサポートいたします。

自己破産をもっと知りたいあなたに