個人再生で偏頗弁済に当たる行為と該当するタイミング・バレる理由を解説
「偏頗弁済(へんぱべんさい)」とは、支払いが不能になったあとに、特定の債権者に対してのみ、優先的に借金を返済する行為を指します。
個人再生・自己破産を行う場合には、「債権者平等の原則」を守るために、偏頗弁済は禁止されています。
もし、ある債権者に対しておこなった返済が偏頗弁済と認定された場合は、個人再生後の弁済金額に上乗せされたり、再生計画案が不認可になったりするなどのペナルティを受けることがあります。
偏頗弁済にはこのようなリスクがあるため、個人再生を検討する方は、偏頗弁済がどのようなものかを理解しておく必要があるでしょう。
本記事では、個人再生における偏頗弁済に焦点を当て解説します。
個人再生で偏頗弁済に当たる行為とは
まず、偏頗弁済とはどのような行為のことを指すのか確認しましょう。
偏頗弁済とは
偏頗弁済とは、支払いが不能になったあとに、特定の債権者に対してのみ優先的に借金を返済することを指します。
具体的には、以下の4つの要素から成り立っています(破産法252条1項3号)。
- 特定の債権者に対する債務について
- 当該債権者に特別の利益を与える目的又は他の債権者を害する目的で
- 担保の供与又は債務の消滅に関する行為であって
- 債務者の義務に属せず,又はその方法若しくは時期が債務者の義務に属しないものをしたこと
たとえば、ほかに弁済期が到来している債務がある状態で、家族や友人など個人間で借りていた返済を先におこなった場合、偏頗弁済に当たります。
個人再生の手続きをおこなう際には、偏頗弁済に当たらないよう十分に気を付ける必要があります。
住宅ローンや税金などの返済は偏頗弁済にならない
個人再生では、住宅ローンは特別な扱いをされています。
住宅ローン特則(住宅資金特別条項)を利用している場合は、住宅ローンに対する返済をおこなっても偏頗弁済にはなりません。
また、税金や社会保険料などを納める義務は当然にあるため、個人再生の手続き中でも、税金や社会保険料などを支払うことも偏頗弁済には当たりません。
加えて、税金や社会保険料だけでなく、賃貸物件に住んでいる方は、賃料を支払わなければ家から追い出されてしまうため、賃料を滞納している場合であっても、優先的に支払うことが許可される場合もあります。
もっとも、滞納賃料の支払いについては偏頗弁済に該当しうる行為ですから、弁済前には弁護士に相談することをおすすめします。
個人再生で偏頗弁済になるタイミング
あらゆる返済が偏頗弁済となってしまうと不都合が生じるため、通常の返済と偏頗弁済を区別する時期が問題となります。
いつの時点で返済が偏頗弁済になるのかというと、支払い不能時点が基準となります。
たとえば、個人再生処理を弁護士や司法書士に依頼し、弁護士や司法書士が各債権者へ受任通知を発送した日にちは、支払不能時点と整理することできます。
これよりあとの時点で、特定の債権者に対して返済をおこなうと、偏頗弁済をしたとみなされる可能性があります。
個人再生で偏頗弁済がバレる理由
個人再生をおこなう際には、給料明細書や通帳のコピー、家計収支表(家計の収入や家賃や光熱費、食費などの支出を集計した家計簿)などの書類を裁判所に提出する必要があります。
そして、特定の人物や会社に対して不自然な出金や送金がないか、入念にチェックされます。
提出した書類から、特定の個人・会社宛に送金していたことが発覚すると、偏頗弁済が疑われる可能性があります。
また、個人再生の手続きにおいては、債権者から届く「調査票」についても裁判所に添付する必要があります。
この書類には、最後に返済した日付を記載する必要があります。
そのため、弁護士などの専門家が介入した日にちよりも、あとの日付が記載されていると、偏頗弁済したことがバレることになります。
個人再生で偏頗弁済がバレたあとのペナルティ
弁護士や司法書士への依頼後に返済してしまい、それが偏頗弁済と認められてしまった場合、どのようなペナルティが課せられるのでしょうか。
具体的なペナルティの内容は、以下のとおりです。
偏頗弁済した合計額が清算価値に上乗せされる
特定の債権者に対しておこなった返済が偏頗弁済と判断された場合、その返済に充てたお金は「本来は存在したはずの資産」として扱われます。
そのため、偏頗弁済した合計額についてはあなたの資産総額(清算価値)に上乗せするという取り扱いになります。
つまり「個人再生後に返済しなければならない額が増えてしまう可能性がある」ということです。
小規模個人再生で個人再生をおこなった場合、「借金総額から見た最低弁済額の基準」と「清算価値の基準」を比較して高いほうが個人再生後の返済額となります。
特定の債権者に返済した額(=偏波弁済額)が少額であれば特に影響はありませんが、数十万円、数百万円単位で返済した場合には、個人再生後の返済額が大幅に増えることにつながります。
再生計画案が不認可になる可能性がある
仮に偏頗弁済の合計額を清算価値に上乗せしないまま再生計画を作成し、それを提出してしまうと、その再生計画は債権者の一般の利益に反するものと判断されます。
その結果として、再生計画案の不認可決定がなされる可能性があります(民事再生法174条2項4号参照)。
こうなると個人再生の申立てが棄却されてしまうため、個人再生をおこなうこと自体ができなくなります。
債権者から返済を急かされている方へ
偏頗弁済には大きなリスクがあるため、個人再生を検討している方は、借金の返済が偏頗弁済に当たるのかどうかを常に気をつける必要があります。
しかし、なかには、ある債権者から強く迫られて、先に返済しなければならない状況に追い込まれる場合もあるでしょう。
このような場合には、弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士等に依頼することが決まり、受任通知書を各債権者に送れば、各債権者は借金の取立てをおこなうことが法的に禁止されます(貸金業法21条1項9号、債権管理回収業に関する特別措置法18条8項)。
上記の法令に違反して、しつこく催促をおこなう場合は、罰金などの制裁を科すことができる(貸金業法47条の3第1項3号参照))ため、債権者からの催告を止めさせる有効な手段となるでしょう。
まとめ
個人再生の手続中に、特定の債権者に対して債務を返済する行為は、偏頗弁済に当たるため、やめましょう。
万が一、偏頗弁済がバレてしまうと、個人再生後の返済額が増えてしまったり、個人再生をおこなったりすること自体ができなくなります。
偏頗弁済に当たる行為は、個人再生を弁護士に依頼したときに、必ず注意されます。
偏頗弁済にあたるか、自身で判断がつきにくい場合は、依頼した弁護士などに相談して判断を仰ぐようにしましょう。
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