消滅時効で借金免除?成立に必要な3つの事|リスクや他の解決策も解説
消滅時効(しょうめつじこう)とは、一定期間、何も音沙汰がなかった債権(借金)が時効により消滅することを意味します。例えば、賃金業者からお金を借りたのに、業者から何も連絡がない状態で一定期間経過すると借金が帳消しになるということです。
消滅時効で借金が帳消しになるなんてうれしい制度ですが、消滅時効が成立する例は極めて珍しいそう。あまり期待しない方がよいでしょう。この記事では、消滅時効を成立させるために必要な手順や、消滅時効が成立しなかった場合の解決方法について解説します。
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債権(借金)の消滅時効を成立させるために必要な3つのこと
まず債権(借金)の消滅時効が法的に成立するまでの手順について確認していきましょう。
参照:「借金の時効が成立する条件|時効成立までの流れと手順」
1:時効期間の経過と確認
消滅時効が成立するためには、法で定められている時効期間を経過する必要がありますが、時効期間は債権の種類によって異なります。
各債権における時効期間
借金の種類 |
時効期間 |
個人間の借金 |
10年 |
飲食代のツケ |
1年 |
慰謝料 |
3年 |
買掛金(商品購入によるツケ) |
2年 |
賃金業者からの借金 |
5年 |
信用金庫・信用組合・保証協会からの借入 |
5年または10年 |
一般的に民法で定められている債権の時効期間は10年ですが、借金をはじめ時効の消滅期間が10年より短い債権の時効を短期消滅時効と呼びます。賃金業者からの借金の時効の消滅期間は5年。借入先が信用金庫、信用組合の場合の時効期間は10年です。
つまり、この期間を無事終えれば借金の消滅時効が成立するわけですが、それは債権者(賃金業者)側がこの期間の間、『時効の中断』に該当する行為を行わなかった場合に限ります。ちなみに、上記の表は 2020年4月1日からの民法改正で一掃され、すべて5年で統一するとされています。
改正民法、20年4月施行決定 契約ルール抜本見直し
生活に密着したルール変更も多い。賃貸住宅の敷金について、退去時に原則として返すと明文化した。飲食代のツケ払いは取り立て期間が長くなる。飲食代は1年、弁護士報酬は2年など業種ごとに異なる「短期消滅時効」を改め、原則「権利を行使できると知ってから5年」に統一する。
引用元:日本経済新聞
2:保証協会の求償権の時効の扱い
保証協会が債務者に代わって弁済(代位弁済)をした場合、保証協会が債務者にとっての債権者になります。この場合、保証協会は債務者へ求償権を所有していることになりますが、求償権の時効は一般的には10年です。
しかし、保証協会が、事業者である債務者の委託に基づき、代位弁済を行った場合、求償権は商事債権となり時効期間は5年になります。
3:消滅時効の起算点
では、時効期間をカウントする場合、どのタイミングから数えればよいのでしょうか。法的には『債権者(賃金業者)が権利を行使できるとき』が起算日になりますが、一般的な賃金業者からの場合は、最後に返済をしてから次に訪れた返済期日から数えてください。
また、債権者との契約書に返済期日が記載されていない場合は、契約日を起算日として時効期間を数えていきます。
消滅時効援用の手続きと手順
無事、時効期間が経過しても、消滅時効が成立するわけではありません。消滅時効を成立させるためには、消滅期間の経過後に、時効の援用(時効の成立を債権者に伝えること)をする必要があります。
内容証明郵便による通知
時効の援用をするためには、債権者(賃金業者)へ時効援用の旨を、口頭、メールまたは文書で伝えましょう。法的な証拠を残すために、内容証明郵便(郵送した事実を証明するための郵便)を介して時効の援用の通知をすることをおすすめします。
通知書を作成する際は、以下のテンプレートを参考にしてください。
消滅時効援用通知書 貴社より平成○年○月○日付の金銭賃借請求 に対し通告致します。 当該金銭債権については、最終弁済日から 5年以上が経過しており、貴社の当方に 対する金銭賃借債権の消滅時効は 5年であるため、消滅時効を援用致します。 平成○年○月○日 通知人 東京都 新宿区 西新宿○ー○ー○ 債務 花子 印 東京都 新宿区 西新宿○ー○ー○ 株式会社○○○ 代表取締役 債権 太郎 殿 |
また、自分で時効の援用の通知書を作成するのが不安な方は、弁護士などその分野の専門家へ依頼しましょう。専門家を介して時効期間を確認することもできます。
契約書の返還
消滅時効援用の手続きが完了すると、通常は契約書が返還されます。契約書が返還されない場合もありますが、時効の援用自体には影響ありません。
【参照】
借金の弁済義務を消滅時効で免れようとする行為のリスク
消滅時効が無事成立すればそれに越したことはありません。しかし、借金の返済義務から逃れるために消滅時効を期待するのは危険も大きいです。ここで消滅時効によって債務を免れようとするリスクについて確認しておきましょう。
債権者からの『時効の中断』
債権者(賃金業者)から時効の中断を行われるリスクがあります。時効の中断とは、消滅時効を成立させないために債権の時効期間を延長するための手続きです。時効の中断をするには以下の方法があります。
民法第147条(時効の中断事由)の条文
第147条(時効の中断事由)
時効は、次に掲げる事由によって中断する。
(1)請求
(2)差押え、仮差押え又は仮処分
(3)承認
時効が成立したと思っていたのに、債権者から時効の中断をされたために、実は時効が成立していないことが後で判明したら対応に困るでしょう。そのため、どのような行為をされたら時効が中断されるのかは理解しておくべきです。時効の中断については詳しくは以下で説明していきたいと思います。
催告状を通知する
催告状の通知により延長される時効期間は6ヶ月です。
法的手段により訴える
催告書による時効の中断の効果は一度のみであるため、時効を成立させないためにも、債権者(賃金業者)側は民事訴訟、支払督促、少額訴訟、民事調停などの法的手段に訴えてくるでしょう。業者側の主張が裁判所側に認められると、賃金業者側は債務者に対して差押えを申し立てることができます。
また、判決が確定すると、時効期間によらず時効期間が10年(民法で定めた時効期間の基準)まで延長されます。
【参照】
仮差押さえ
仮差押えとは債務者の特定の財産を、処分できないようにするための法的手続きです。仮差押えが適用されると、時効期間がストップする上、時効の援用もできなくなります。
仮差押命令の送達後から2週間以内に仮差押命令の執行の申立てをしないと、仮差押えの効力はなくなってしまうため、債権者側は2週間以内に仮差押命令の執行を申し立ててくるでしょう。
債務の承認を促す
時効が成立する前に債務の承認をした場合、時効期間は振り出しに戻ります。債務の承認とは、債務者が自ら借金の存在を認める行為で、法的には
- 債務者が債権者へ返済の猶予の依頼をした場合
- 債務者と債権者との間で返済契約書を新たに作成した場合
- 債務者が貸金の一部を返済した場合
などが債務の承認に該当します。消滅時効の成立を期待している方は、これらの行為をしないように気をつけましょう。
消滅時効が成立する前に発生した延滞金
時効が成立するまでの間に債権者(賃金業社)側から時効の中断が行われた場合、元金に加えて、その間に発生した延滞金を返済しなければなりません。延滞金とは、法的には遅延損害金と呼びますが、延滞日数、元金、遅延損害金年率(上限20%)によって算出されます。
消滅時効を期待する方の大半が、数年に渡り延滞日数を重ねていくと思いますが、その分、加算される延滞金も膨大になるでしょう。また、契約の際に設定された利息は、延滞金が発生したときから加算されません。
計算例
借入金100万円、遅延損害金年率20%だとすると、概算で1年あたり20万円の遅延損害金が発生します。そして翌年に発生する遅延損害金は、【120万円×20%=24万円】であり、翌々年に発生する遅延損害金は、【144万円×20%=28万8,000円】です。
延滞から3年が経過すると、元金から72万8,000円も多くもの延滞金が発生することになります。
個人信用情報機関への事故登録(ブラックリスト)への掲載
仮に消滅時効が成立しても、個人信用情報機関に事故登録(ブラックリスト)として個人情報が掲載されることがあります。いわゆるブラックリスト入りすると、クレジットカードの発行や金融機関への借入が難しくなります。
CICに『貸し倒れ』として5年間掲載
消滅時効が成立する前の段階では、債務者の事故登録上での扱いは延滞者です。しかし、消滅時効が成立すると借金の返済義務がなくなるため、延滞者として扱われなくなります。
信用情報機関でもJICC(日本信用情報機構)やKSC(全国銀行個人信用情報センター)では、消滅時効が成立すると事故登録が白紙になり、JICCとKSCに加盟している金融機関、カード会社から借入、クレジットカードの発行は可能となることが多いです。
しかし、CIC(Credit Information Center)に関しては『貸し倒れ』もしくは『契約終了」として新たに事故登録へ5年間、掲載されます。多くの銀行系のカード会社、クレジットカード会社、アコムやプロミスをはじめとした大手消費者金融がCICに加盟しているので、今後のクレジットカードの発行、新規の借入は不便になるでしょう。
また、消滅時効の対象である賃金業者が系列展開している場合、今後、その賃金業者と系列店舗における借入、カードの審査に通ることは難しいと思ってください。
【参照】
消滅時効が成立しなかった場合の法的解決方法
借金を消滅時効により帳消しにすることが難しいことがわかったと思います。ここまでで、借金の時効を成立させることが難しいと思った方は、債務整理によって借金を整理しましょう。債務整理とは法的に借金を整理(利息・元金の減額または免除)するための手続きです。
一般的には、法律の専門家を介して行われる手続きになりますが、各債務整理における違いを確認していきましょう。
任意整理
債務整理は、大きく“任意整理”、“個人再生”、“自己破産”に分けることができます。任意整理は、裁判所を介さない手続きになるので、最もハードルが低い債務整理です。任意整理では、“過払い金発生による借金の減額”、“将来利息・遅延損害金(延滞金)の免除”、“返済期間(3~5年が多い)”について債権者と直接、話し合います。
賃金業者との交渉は、弁護士、または認定司法書士(※1社あたりの借入金額140万円以下の場合に限り依頼可能)に代理してもらうとスムーズです。
個人再生
個人再生とは、裁判所を介して、借金の減額、減額後の借金の返済方法(返済期間原則3年)について計画(再生計画案)を立てるための手続きです。任意整理と比べると減額できる借金の割合が高く、金額に比例して高額な借金を減額することができます。
個人再生は手続きが複雑なので、不安のある方は、法律の専門家へ相談しましょう。
【参照】
自己破産
個人再生を適用しても借金を返せそうにない方は、自己破産を申し立てましょう。自己破産とは、所有財産が没収される代わりに、裁判所を介して借金を免除するための手続きです。裁判所から免責が認められなければ借金は免除されません。確実に手続きを済ませたい方は、法律の専門家へ相談しましょう。
【参照】
まとめ
消滅時効によって借金の帳消しを期待することは実現性に乏しいのが現実です。そのため、どうしても自力で借金を返せない方は、債務整理を検討しましょう。
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