保証債務とは|保証人が背負うリスクと有する権利
保証債務(ほしょうさいむ)とは、債務者が債務を履行しない場合、保証人が債務者に代わって履行しなければならない債務のことをいいます。
債務とは何らかの行動をとらなければならない義務のことをいい、この債務を負っている人のことを債務者といいます(なお、保証債務の場合、主として債務を負っている人のことを主債務者ということがあります)。また、債務者に対して債務の履行を請求できる人のことを債権者といいます。
債務の具体的な中身は契約内容によりますが、たとえば、主債務者が「お金を借ります」、「借りたお金は○○までに返済します」という消費貸借契約を債権者との間で結んだ場合は、お金の返済義務が債務ということになります。そして、主債務者が契約どおりにお金を返済しない場合に、その主債務者に代わって保証人がお金を返済しなければならないのが保証債務というわけです。
自身は借金をしていなくても、家族や知人の保証人となっている人も少なくないでしょう。また、これから保証人を付けて借り入れやローンをする方も、保証人に及ぶ影響を理解したうえでお願いしましょう。
今回は保証債務に関しての解説を行います。
保証債務とは保証人が弁済する債務
冒頭でも解説したように、保証債務とは、主債務者が債務を履行しない場合、保証人が主債務者に代わって履行しなければならない債務のことです。
主債務者がお金を返済しなければならないという債務を負っている場合に、主債務者がお金を返済しない場合は、保証人が主債務者に代わってお金を返済する義務を負います。
保証債務と消滅時効との関係
消滅時効とは、一定の期間(消滅時効期間)が経過すると、債権者の権利を消滅させてしまう法制度のことをいいます。主債務者・保証人の立場に立てば、消滅時効は大変ありがたい法制度でしょう。なぜなら、債権者の権利が消滅するということは同時に債務も消滅する(借金している場合は、借金の返済義務が消滅する)ことになるからです。
もっとも、以下のケースの場合、消滅時効期間がリセット(更新)される、または消滅時効の進行がストップ(時効完成の猶予)されますので注意が必要です。
主債務者・保証人に対する請求があった場合
債権者が主債務者に対して「借金を返済して欲しい」と請求(催告)した場合は、主債務者の消滅時効の完成が6か月間猶予されます(民法第150条第1項)。
(催告による時効の完成猶予)
第百五十条 催告があったときは、その時から六箇月を経過するまでの間は、時効は、完成しない。
2 催告によって時効の完成が猶予されている間にされた再度の催告は、前項の規定による時効の完成猶予の効力を有しない。
また、主債務者の債務と保証人の保証債務は本来別個の債務ですが、債権者が主債務者に対して請求した時点で、保証人の消滅時効の完成も猶予されます(民法第457条第1項)。この意味では、主債務者と保証人は一心同体ということになります。
(主たる債務者について生じた事由の効力)
第四百五十七条 主たる債務者に対する履行の請求その他の事由による時効の完成猶予及び更新は、保証人に対しても、その効力を生ずる。
2 保証人は、主たる債務者が主張することができる抗弁をもって債権者に対抗することができる。
3 主たる債務者が債権者に対して相殺権、取消権又は解除権を有するときは、これらの権利の行使によって主たる債務者がその債務を免れるべき限度において、保証人は、債権者に対して債務の履行を拒むことができる。
主債務者・保証人による債務の承認があった場合
債務の承認とは、債務者が債権者に対して債務を負っていることを認めることを表示することです。
借金の一部返済することなどが債務の承認の典型例です。
たとえば、借金をしている主債務者が債権者に対して借金を一部返済すると、主債務者が債務を承認したと判断され、その時点で主債務者の消滅時効期間はリセットされます(民法第152条第1項)。また、その効力は保証人にも及び、保証人の消滅時効期間もリセットされます。
(承認による時効の更新)
第百五十二条 時効は、権利の承認があったときは、その時から新たにその進行を始める。
2 前項の承認をするには、相手方の権利についての処分につき行為能力の制限を受けていないこと又は権限があることを要しない。
債権者が確定判決を取得した場合
債権者が主債務者を相手に訴訟を提起し、裁判で判決が言い渡され、不服申し立て期間(14日)が経過してその判決が確定したとします。すると、消滅時効は更新され(民法第147条第1項第1号、同第2項)、主債務者の消滅時効期間は10年となります(民法第169条第1項)。また、この効果は保証人にも及び、保証人の消滅時効期間も10年となります。
(裁判上の請求等による時効の完成猶予及び更新)
第百四十七条 次に掲げる事由がある場合には、その事由が終了する(確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定することなくその事由が終了した場合にあっては、その終了の時から六箇月を経過する)までの間は、時効は、完成しない。
一 裁判上の請求
二 支払督促
三 民事訴訟法第二百七十五条第一項の和解又は民事調停法(昭和二十六年法律第二百二十二号)若しくは家事事件手続法(平成二十三年法律第五十二号)による調停
四 破産手続参加、再生手続参加又は更生手続参加
2 前項の場合において、確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定したときは、時効は、同項各号に掲げる事由が終了した時から新たにその進行を始める。
(判決で確定した権利の消滅時効)
第百六十九条 確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって確定した権利については、十年より短い時効期間の定めがあるものであっても、その時効期間は、十年とする。
2 前項の規定は、確定の時に弁済期の到来していない債権については、適用しない。
主債務者が消滅時効期間経過後に一部返済した場合
この場合は消滅時効期間が経過しているため、主債務者は債権者に対して時効完成を主張して借金返済を逃れることができるようにも思えます。しかし、判例(最高裁昭和41年4月20日)は、この場合、債務者が時効を援用すること(※)を認めていません。時効を援用できない結果、時効は完成せず、借金の返済義務は残ります。
他方で、保証人については時効を援用することを認めています。消滅時効期間経過後に借金を一部返済したという主債務者の落ち度を保証人まで負わせるわけにはいかないからです。
※時効の援用とは、時効の完成を主張する意思表示のことです。消滅時効が完成するには、消滅時効期間の経過に加えて時効を援用することが必要です。
保証債務が成立する条件
保証債務は債権者と保証人との間で保証契約が結ばれることによって成立します。つまり、保証契約の当事者はあくまで債権者と保証人で、主債務者が負う主債務と保証人が負う保証債務は別個の債務という点に注意が必要です。
なお、主債務者と保証人との間で結ばれる保証委託契約は保証債務の成立条件ではありません。保証人は主たる債務者と保証委託契約を結ばなくても、単独で債権者と保証契約を結ぶことができます。
その他、保証債務を成立するにあたっての注意点をみていきましょう。
保証契約には書面もしくは電磁的記録が必要
保証契約は、口約束などで結ぶことはできません(民法第446条第2項、第3項)。
保証人は主たる債務者と同様に重い責任を負う可能性があることから、保証人が安易に保証契約してしまわないよう、慎重を期する意味で書面が必要とされています。
(保証人の責任等)
第四百四十六条 保証人は、主たる債務者がその債務を履行しないときに、その履行をする責任を負う。
2 保証契約は、書面でしなければ、その効力を生じない。
3 保証契約がその内容を記録した電磁的記録によってされたときは、その保証契約は、書面によってされたものとみなして、前項の規定を適用する。
保証人には保証をできる能力のある人を選任
契約などによって債務者が保証人を立てる義務を負う場合は、保証人は
- 行為能力者であること(法律上の効果を発生させる行為を行うための判断能力を有していること)
- 弁済をする資力を有すること
という二つの条件が備わっている者でなければなりません(民法第450条第1項)。
(保証人の要件)
第四百五十条 債務者が保証人を立てる義務を負う場合には、その保証人は、次に掲げる要件を具備する者でなければならない。
一 行為能力者であること。
二 弁済をする資力を有すること。
2 保証人が前項第二号に掲げる要件を欠くに至ったときは、債権者は、同項各号に掲げる要件を具備する者をもってこれに代えることを請求することができる。
3 前二項の規定は、債権者が保証人を指名した場合には、適用しない。
もっとも、債権者が自ら保証人を指名した場合は、上記条件を備えることは不要です(民法第450条第3項)。なぜなら、保証人が上記条件を備えなければならないとされているのは債権者を保護するためであるところ、債権者が自ら保証人を指名した場合は自己責任として債権者を保護する必要はないからです。
また、債務者が保証人を立てる義務を負わない場合も、保証人が上記条件を備えることは必要とされていません。
保証債務で保証人が負う義務の範囲
保証人が負う保証債務は、債務者の債務はもちろん、利息・違約金・損害賠償の支払い、その他その債務に従たるすべてものに関する責任も含まれます(民法第447条第1項)。
また、前述のとおり、主債務と保証債務は別個の債務であることから、保証人は保証債務に関しての違約金又は損害賠償の約定をすることが可能です(同第2項)。保証人が債権者との契約で、違約金又は損害賠償の支払いの約定をした場合はその支払い義務も負うことになります。
(保証債務の範囲)
第四百四十七条 保証債務は、主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たるすべてのものを包含する。
2 保証人は、その保証債務についてのみ、違約金又は損害賠償の額を約定することができる。
保証人が使える催告の抗弁権と検索の抗弁権
前述のとおり、保証人は主債務者と同様の責任を負う可能性があるとはいえ、保証債務はあくまで主債務がきちんと履行されなかった場合の備えての担保のようなものです。したがって、債権者が保証人と保証契約を結んでいるからといって、主債務者ではなく保証人にいきなり債務の履行を請求することは許されず、主債務が履行されない場合にはじめて履行を請求することができるのが保証債務なのです。これを保証債務の補充性といいます。そして、保証債務の補充性を法律上、具体化したものが「催告の抗弁権」と「検索の抗弁権」です。
催告の抗弁権とは
催告の抗弁権(民法第452条)とは、保証人が債権者から履行の請求をされた時に、「主債務者である本人に請求してください」と対抗できる権利のことです。
ただし、主債務者が裁判所から破産手続開始を受けたとき、行方不明となっている場合は催告の抗弁権を行使することができません。また、後述しますが連帯保証人はそもそも催告の抗弁権を有さず、事由を問わず権利を行使することができません。
(催告の抗弁)
第四百五十二条 債権者が保証人に債務の履行を請求したときは、保証人は、まず主たる債務者に催告をすべき旨を請求することができる。ただし、主たる債務者が破産手続開始の決定を受けたとき、又はその行方が知れないときは、この限りでない。
検索の抗弁権とは
検索の抗弁権(民法第453条)とは、同じく保証人が債権者から債務の履行を請求された時に、「主債務者にはまで弁済する資力があるので、まずは財産に対して強制執行(差し押さえ)して債権の回収を図ってください」と対抗できる権利のことです。
ただし、債権者に対して検索の抗弁権を行使するには、保証人が債務者に弁済する資力があること、その財産に対して強制執行することが容易であることを証明しなくてはなりません。
催告の抗弁権と同じく連帯保証人は検索の抗弁権を有しません。
(検索の抗弁)
第四百五十三条 債権者が前条の規定に従い主たる債務者に催告をした後であっても、保証人が主たる債務者に弁済をする資力があり、かつ、執行が容易であることを証明したときは、債権者は、まず主たる債務者の財産について執行をしなければならない。
(連帯保証の場合の特則)
第四百五十四条 保証人は、主たる債務者と連帯して債務を負担したときは、前二条の権利を有しない。
保証人の弁済後に使える求償権
また、保証人は「求償権」という権利も有しています。求償権とは、保証人が主債務者に代わって債務を履行した後に、主債務者に対して履行した分の償還を求めることができる権利のことです。
たとえば、保証人が主債務者に代わって100万円の借金を返済した場合に、保証人が主債務者に対して100万円を償還せよと請求できる権利が求償権というわけです。
もっとも、保証人が主債務者に代わって返済するということは、主債務者の経済状況がよくない可能性が高いことが多いです。そのため、仮に、保証人が主債務者に対して求償権を行使したとしても、肩代わりした分を実際に回収できるかどうかは不透明です。
通常保証以外の特殊な保証
ここまで保証債務に関しての解説を行ってきました。ここまでのご説明は一般的な保証、つまり通常保証といわれる内容の説明です。
しかし、保証には少し条件の変わった特殊な保証もあります。以下では条件の違う特殊な保証についての解説をいたします。
連帯保証
連帯保証とは、保証人が債務者と連帯して保証債務を負担するものです。この保証人のことを連帯保証人といいます。
連帯保証人には催告の抗弁権や検索の抗弁権が保障されていません。すなわち、債務者を通さず、債権者からいきなり債務の履行を請求される可能性があるのです。
また、連帯保証人には分別の利益がありません。
分別の利益とは、保証人の頭数分の割合でのみ保証債務を負担すればよいということです。たとえば、債務者が300万円の借金をしていて保証人が2人いるという場合は、分別の利益によって、各保証人は150万円の限度で返済義務を負うことになります。
連帯保証人には分別の利益がありませんから、連帯保証人が複数いる場合であっても各連帯保証人は300万円の返済義務を負うことになるのです。
上記のように連帯保証は債権者にとっては有利(保証人にとっては不利)な制度であることから、お金を借りる際、ローンを組む際などは債権者から連帯保証人を付けるよう求められることが多いです。
継続的保証
根保証とも呼ばれ、一定の継続的取引関係から生じる債務を保証するものです。根保証の例として、中小企業者等が金融機関からお金を借りる際に信用保証協会が保証人となる信用保証や、労働者が会社(使用者)に与えた損害を保証する場合の身元保証などがあります。
このうち身元保証については、ご自身がご家族の身元保証人となったこともあって身近に感じる方も多いのではないでしょうか?しかし、その本質は根保証契約で、一定期間の債務を保証するものであることから、予想もしない債務を負わせられる可能性がある点には注意が必要です。仮に、ご家族が就職する会社から身元保証人になることを求められた場合は安易に引き受けることは慎み、契約内容をよく読み、納得の上で書類にサインすることが必要です。
共同保証
共同保証とは、同一の主債務について、数人の保証人がある保証のことをいいます。共同保証には、数人の保証人が、
- 通常の保証人である場合
- 通常の保証人であるがこれらの者の間に全額弁済の特約のある場合
- 連帯保証人である場合
の3ケースがあります。
①、②の保証人には催告の抗弁権、検索の抗弁権が認められます。他方で、前述のとおり、連帯保証人にはこれらの権利は認められていません。
まとめ
保証債務は、主債務者が債務を履行しない場合に、保証人が主債務者の代わりに履行しなければならない債務のことです。債務者がきちんと債務を履行してくれれば、保証人には何ら影響は及びませんが、履行しなかった場合は大きな影響が及ぶ可能性があります。
保証人になる際はその債務者の信用や契約内容をきちんと確認し、慎重に判断したうえで契約を結ぶようにしましょう。
また、返済の途中で「債務者に逃げられてしまった」場合、探偵(興信所)を使って債務者の住所や勤務先を割り出すことも可能です。行方調査・所在調査の専門サイト(人探しの窓口)もありますので、一度無料相談してみるのがおすすめです。
保証人を付けて借り入れ等を行う場合は、少しでも自身の返済が遅れると、保証人に迷惑をかけてしまう可能性があります。保証人の有無に限った話ではないのですが、支払いにはルーズにならず、きっちり返済していきましょう。
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