自己破産の同時廃止とは? 管財事件と徹底比較
同時廃止(どうじはいし)とは、自己破産手続きの一種で、『破産管財人(はさんかんざいにん)』が選任されず、破産手続き開始決定と同時に免責許可(借金をゼロにするための許可)が出ます。
そのため、費用を抑えつつ、短期間で借金をゼロにできるというメリットがあります。
個人の自己破産の場合、ほとんどが同時廃止となり、借金がゼロになります。実際、2014年の破産事件及び個人再生事件調査では、70%以上の人が同時廃止で自己破産を行いました。
できれば、あなたも費用を抑えつつ、短期間で自己破産したいですよね。ただ、誰でもできるわけではありません。そこで、この記事では自己破産における「同時廃止」について詳しく説明をしていきたいと思います。
【関連記事】自己破産したらどうなる?デメリットや費用・条件を弁護士がわかりやすく解説
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同時廃止と管財事件の違い
「同時廃止」と、破産管財人が選任される「管財事件」の違いは以下の通りです。
|
同時廃止 |
管財事件 |
手続き開始の条件 |
・借金が返済できない ・免責不許可事由が明らかにない ・総資産が20万円ない |
・借金が返済できない ・免責不許可事由への該当が疑われる ・債権者に分配するだけの財産がある |
実務の内容 |
・破産管財人が選任されない ・破産手続きが始まると同時に終了 ・免責手続きにより免責許可決定を得る |
・破産管財人が選任される ・破産手続きにより債権者集会を経て財産の配当を行う ・免責手続きにより免責許可決定を得る |
手続にかかる費用 |
・予納金1万円程度 |
・予納金1万円程度 ・管財人費用最低20万円(少額管財の場合) |
解決までの期間 |
・約2~3ヶ月 |
・約6~8ヶ月(資産を換価する時にはそれ以上かかる場合あり) |
では、詳しく解説していきます。
手続き開始の条件
自己破産の手続きは「破産手続」と「免責手続」に分けることができますが、破産手続の実体的な条件は「支払不能」です。支払不能とは、債務者の財産状況から、客観的にみて借金返済を継続していくことが不可能な状態にあることをいいます。
その上で、破産手続費用を支払うだけの財産がないと認められた場合には「同時廃止事件」、あると認められた場合には「管財事件」として破産手続が進められます。
破産手続を進めていくには様々な費用がかかりますが、その費用を支払うだけの財産がない場合は手続きを進めていくことができません。その場合に、破産手続の開始と「同時」に破産手続を廃止する事件が「同時廃止事件」です。
「破産手続費用を支払うだけの財産」は「20万円」が目安です。つまり、一定の財産の価額が20万円を下回る場合は「同時廃止事件」、20万円を超える場合は「管財事件」というのが一つの基準です。
また、現金を33万円以上有している場合は管財事件として扱われます。
こうした財産の条件に加えて「免責不許可事由」がないことが明らかであることも、同時廃止となる基準の一つです。
免責手続を開始するためにも裁判所に対する申立てが必要ですが、手続上、破産手続を申立てたと同時に免責手続を申し立てます。
実務の内容
自己破産手続きには、大きく分けて以下2つの手続きがあります。
- 債権者のために財産を配当する「配当手続」
- 債務者のために債務を免責する「免責手続」
配当可能な財産が残っている管財事件の場合は、①と②の両方の手続きを行わなければなりません。①の配当手続きでは、債権者から意見を聞く「債権者集会」が開かれます。
一方、同時廃止事件の場合は、配当可能な財産が存在しないため①を行う必要がありません。そのため、②の免責手続きだけ行うことになります。
手続きにかかる費用
自己破産の手続きを進めていく上では、裁判所に一定の金額(予納金)を納める必要があります。予納金は手数料、官報公告費、郵券(郵便切手代)の3つに、管財事件の場合は引継予納金(破産管財人の報酬等に充てるお金で、通常、破産者の代理人弁護士から破産管財人に直接支払われる(引き継がれる)お金であることから「引継」予納金と言われています)が加算されます。
予納金の額は各地方裁判所によって異なりますが、東京地方裁判所の場合、
【同時廃止事件の予納金】
- 手数料 1,500円
- 官報公告費 1万1,859円
- 郵券 4,200円
【少額管財事件の予納金】
- 手数料 1,500円
- 官報公告費 1万8,543円
- 郵券 4,200円
- 引継予納金 200,000円~
となっています。
なお、少額管財事件とは、管財事件のうち、予納金の額が比較的少なく済む事件のことです。
解決までの期間
同時廃止事件の場合、破産手続の開始・同時廃止から約2か月前後で免責手続のための免責審尋(氏名・住所や免責不許可事由などについて問われる5分程度の手続き)が行われ、審尋から約1週間前後で免責許可決定が出ます。決定が確定するのは、それから約1ヶ月後です。したがって、免責までには、破産手続の申立てから約3か月~4か月はかかると想定しておいた方がよいでしょう。
他方で、管財事件(個人の自己破産の場合、多くは少額管財事件)の場合、後記のとおり、様々な手続きを踏む必要があります。債権者集会は破産手続開始・免責許可の申立てから約3か月前後で開かれ、債権者に配当すべき財産がなく破産手続が異時廃止により1回で終了した場合は、免責審尋に移行します。その後の流れ、期間は同時廃止の場合と同様です。したがって、免責までには、破産手続開始・免責許可の申立てから最短でも約4か月はかかると想定しておいた方がよいでしょう。
なお、個人の自己破産の場合、1年以上かかることは稀ですから、管財事件の場合、申立てから4カ月から1年が目安といってよいでしょう。
手続きの流れ
同時廃止・管財事件それぞれの手続きの流れを解説します。
同時廃止
破産手続開始・免責許可の申立てをした後、書類や面接などから同時廃止事件とするための条件を満たすと判断された場合は、破産手続開始決定と同時に破産手続廃止決定が出されます。その後は、免責手続に移行し、免責審尋を受け、免責許可決定→決定確定という流れを踏めば免責されます。
管財事件
申立てが受理された後、同時廃止事件ではなく管財事件(少額管財事件)となった場合は、破産管財人が選任されます。破産管財人とは破産者の財産を調査・管理・処分・換価したり、免責不許可事由の有無を調査する人です。さらに破産管財人は、債権者集会において、破産者の財産状況、財産の換価状況を報告したり、裁判所に対して免責に関する意見を述べたりします。
債権者に配当できる財産がある場合は破産管財人による処分・換価→債権者集会という流れが繰り返されて破産手続が進められます。配当が終わった後、あるいは財産がない場合は手続が廃止(異時廃止)された後は免責手続に移行します。
自己破産で同時廃止になる2つの基準
申し立ての際に「同時廃止事件」を希望することはできますが、同時廃止とするかどうかは裁判所の判断によります。主に、
- 財産面
- 免責不許可事由
の2つの方向から検討され、基準を満たした上で、最終的に裁判所が「同時廃止事件」に該当するか否かの判断を下します。
基準①:破産手続きの費用を支払えないと裁判所が認めること
同時廃止事件を行うための要件は、以下の通りです。
裁判所は、破産財団をもって破産手続の費用を支弁するのに不足すると認めるときは、破産手続開始の決定と同時に、破産手続廃止の決定をしなければならない
引用:破産法第216条1項
破産財団とは、簡単に言うと破産者の資産のことです。
もっと厳密に言うと、『破産者の財産又は相続財産若しくは信託財産であって、破産手続において破産管財人にその管理及び処分をする権利が専属するものをいう(破産法2条14項)』とされています。
つまり、仮に破産管財人が破産者の財産を処分・換価したとしても、破産費用手続きを賄うことができないとわかっている場合には、同時廃止事件の決定を下されると考えてよいでしょう。
そのため、同時廃止事件を行うためには、今自分がどの程度の財産を所持しているのか把握しておく必要があります。
もし、事前の財産調査が不十分であった場合には、資産の有無を明らかにするため、管財人が選任され「管財事件」となるケースも想定されるため、注意が必要です。
支払いできるかどうかは20万円が基準
破産手続きを進めるためには、いくらかの費用が必要になります。管財事件では、破産管財人の報酬等が必要になるため、予納金の額が大きくなります。
この破産管財人の報酬は、少額管財と呼ばれる費用が低額な手続きであっても、最低20万円程度は納める必要があります。
そのため、同時廃止事件か管財事件を判断する基準としては、「自分の財産が20万円以上あるかどうか」が、一つの基準となってくるでしょう。
基準②:免責不許可事由がないことが明らか
裁判所の判断により借金の支払いを免れることを「免責」と呼びますが、借金の原因によってはこの免責が認められない可能性もあります。
代表的な原因の例を挙げると、競馬などのギャンブルやパチンコなどの遊興費などです。借金がこれらによって生じたものの場合、免責が認められない可能性があります。これを「免責不許可事由」があると言います。
このような免責事由の調査についても、破産管財人が行うことになります。
そのため、借金の原因が不明瞭であり、免責不許可事由に該当するのではないかと疑われるときには、破産管財人がつくことになり、管財事件となってしまいます。
逆に言えば、借金の原因が明らかで免責不許可事由に該当しない場合なら、同時廃止事件になるでしょう。
免責不許可事由がないことが明らかな場合とは
例えば、病気で働けず収入がなくなってしまった場合、事業継続のための運転資金を借り入れたが事業がうまくいかなかった場合など、免責不許可事由に該当しないことが明白な場合は、管財人による調査は必要ありません。
他方、以下のような事例の場合、免責不許可事由に該当する可能性があるため、管財人による詳細な調査が行われることがあります。
- 資産を故意に隠す
- 債権者を故意に隠す
- 借金の原因がギャンブルや遊興費に該当する場合 など
なお、「借金の原因が免責不許可事由に該当するので、免責が認められないのではないか」と考える方もいらっしゃると思います。
そのような場合であっても、裁判所は、破産手続きに取り組む態度や姿勢、破産に至るまでの経緯など、さまざまな要素を考慮した上で裁量的に免責を認めるケースも多くあります。過度に心配しなくてもいいでしょう。
同時廃止における弁護士・司法書士の実務と費用
自己破産手続きは、一人で行うのも不可能ではありません。ただ、それには法律や裁判に関する高度な知識が必要になります。
そこで頼りになるのが弁護士や司法書士です。自己破産で悩んだときは、専門家に相談することで、スムーズな解決が期待できます。
弁護士・司法書士ができること
司法書士は、破産手続きそのものを代理する権限はありません。そのため、手続き中に行われる審尋に参加するなど破産者の代理人として参加することはできません。司法書士が行えるのは、あくまで裁判に必要な書類の作成に留まります。
一方、弁護士は書類作成から申し立ての代理に至るまで、全般にわたって手続きを行えます。
弁護士・司法書士の費用
依頼費用は、一般的には司法書士のほうが安く済む場合が多いようです。大まかな目安としては、弁護士が30~50万円程度、司法書士が15〜30万円程度といわれています。
ただ、どちらがよいと一概に断言することはできないため、自分の希望する依頼内容と照らし合わせて、どちらを選ぶか決めましょう。
弁護士・司法書士に依頼するメリット・デメリット
続いて弁護士・司法書士に依頼するメリット・デメリットを開設します。
メリット
一番のメリットは、必要書類の収集や作成の負担が減るという点です。
裁判所に申立てが受理されるためには、過不足ない書類の収集、不備のない書類の作成が必要不可欠です。同時廃止事件を求める場合は、申立て前に財産についてきちんと調査をした上で、裁判所が書類を見ただけでも同時廃止事件の条件が満たされていることが分かる程度に書類を整え、作成しておく必要があります。弁護士に依頼すれば、必要な財産調査から書類の収集・作成まで行ってくれますから、負担が減りますし、慣れない手続きで失敗するというリスクも回避することができます。
その他、債務整理共通のメリットとして、債権者からの督促・取り立てがストップする、問題解決に向けてベストな選択肢を示してくれるという点を挙げることができます。
デメリット
デメリットは費用がかかるという点です。
弁護士費用の内容、費用の支払い方などは法律事務所によって異なりますので、なるべく多くの法律事務所に相談した上で、ご自身の希望や状況にあった法律事務所を選ぶようにしましょう。
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まとめ
同時廃止事件はほかの手続きと比べ、費用もかからず短期間で免責決定を得ることができるため、金銭的な不安や精神的な負担があまりかからないのが特徴です。同時廃止手続きを円滑に進めて借金の返済から解放されれば、新たなスタートが踏み出せるでしょう。
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