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債務名義とは?業者が財産差し押さえもできる債務名義の知識

弁護士法人プラム綜合法律事務所
梅澤 康二
監修記事
債務名義とは?業者が財産差し押さえもできる債務名義の知識

債務名義(さいむめいぎ)とは、債務者に対して、裁判所又は執行官が強制執行することを許可した公文書のことを言い、強制執行によって実現される「請求権の存在」「請求の範囲」「債権者の有無」「債務者の有無」を証明する書面です。

債権者が強制執行を行うにはこの債務名義が必要になり、債務名義には「1:実現されるべき給付請求権」「2:当事者」「3:執行対象財産ないし責任の限度」が記載されています。

今回は債務名義について知っておくべき知識を解説します。

強制執行で給料の差し押さえされそうな方へ

債務名義があることで差し押さえのリスクが高まります。給料を差し押さえられないためにも、回避方法を把握しておきましょう。

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この記事に記載の情報は2023年11月17日時点のものです

債務名義の種類と特徴

債務名義は貸金業者が債権者に対して強制執行を行う前段階で許可を得る為のものです。

つまり、いきなり強制執行を行うことはできず、債権があることを公的に証明した文書を用意する必要があります。

そして、この文書(債務名義)を裁判所に提出し、裁判所の執行官と呼ばれる人によって強制執行が行われるという手順です。債務名義として認められる文書は民事執行法22条で定められています。

  1. 確定判決
  2. 仮執行宣言の付した判決
  3. 抗告によらなければ不服を申し立てることができない裁判
  4. 仮執行の宣言を付した損害賠償命令
  5. 仮執行の宣言を付した支払督促
  6. 訴訟費用、和解の費用若しくは非訟事件等の費用の負担の額を定める裁判所書記官の処分等
  7. 金銭の一定の額等を目的とする請求について公証人が作成した公正証書で、債務者が直ちに強制執行に服する旨の陳述が記載されているもの
  8. 確定した執行判決のある外国裁判所の判決
  9. 確定した執行決定のある仲裁判断
  10. 確定判決と同一の効力を有するもの
  11. 裁判上の和解調書

11もの種類がありますが、この中で実際に使用されるのは4種類に限られますので、その4種類ついてご紹介します。

確定判決(民事執行法22条1号)

最も一般的なのは裁判所に支払い請求の訴訟を起こすことにより、その裁判で出た判決が債務名義になります。

裁判の確定とは、敗訴した側が不服の申立(控訴や上告)ができなくなった状態をいいます。

つまりその判決の結論が変わり得なくなった時点で判決が確定することになります。

仮執行宣言の付した判決(民事執行法22条2号)

裁判の確定を待って権利救済が遅れてしまう場合を考慮して、単純な金銭の支払い請求訴訟などでは、仮執行の宣言のついた確定前の判決でも債務名義が認められています。

仮と付いていますが、強制執行を行うにあたり、確定判決と何ら効力には変わりはありません。

執行について記載のある執行証書(民事執行法22条5号)

金銭の一定額の支払、またはその他の代替物(金銭に変えられるもの:不動産など)、もしくは有価証券の給付を目的とする請求についての内容を、公証人が作成した公正証書のことで、「債務者が直ちに強制執行に服する旨の内容」が記載されているものをいいます。

確定判決と同一の効力を有するもの(民事執行法22条7号)

確定判決と同一の効力を与えられている債務名義のことで、「裁判上で和解が成立した内容を記載する和解調書」や、「民事調停が成立したときの内容を記載する調停調書」があります(民事訴訟法267条、民事調停法16条)。

調停の結果を記載した書面のなかでも、裁判上の和解調書と同一の効力を与えられているものもあります。

貸金業者にとっての債務名義の重要性と取得手段

次に債務名義の重要性についてですが、これはどちらかといえば金融業者が債務名義を得る際に必要になる項目ですので、興味のない方は「もし金融会社から債務名義が届いたら」に進んでいただければと思います。

しかし、金融業者側の思惑や債務名義の手順などを知っておくことで心の準備等もできますので、予備知識的に知っておきましょう。

貸金業者も不履行は怖い

1度は債務者に支払いの猶予を与え、支払条件を緩和したにも関わらず、その後の支払がされないという不履行は、金融業者にとって非常に困る事態です。債務名義の取得をしようと思っても、債務者が非協力的な場合には金融業者も民事訴訟を提起するしかありません。

もちろん民事訴訟には費用と時間もかかりますし、裁判費用は基本的に起こした側が支払うものです。そのため、業者も将来の不履行に備えて、債務名義をとっておくことは非常に大切なことです。

金融会社が債務名義を取得する手段

最も安上がりな「即決和解」

債務者との間で支払に対する合意内容が明らかな場合、最も費用の安い「即決和解」による請求を行うのが多いです。(申立手数料1,500円)。

また、即決和解は金銭債権に限られないため、物の明渡請求や登記請求にも利用されます。つまり、家財道具を差し押さえられる可能性が高い手段ですね。

手間と時間もかからない「公正証書」

債務者と合意内容が決まっている金銭債権に関するもので、できるだけ早く手続を済ませたい場合には公正証書を元に強制執行が行われることがあります。

公正証書は裁判所に行かずともすぐに強制執行が行えるもので、一般的には遺言作成や離婚時の慰謝料を支払わせる場合に利用されます。

費用は即決和解より多くかかりますが、確実に金銭を抑えることができます。

合意が得られない場合は「民事調停」

「即決和解」や「公正証書」とは違い、債務者との合意内容がはっきり決まっていない場合に利用されます。

例えば、債務者はもう6か月支払の期日に猶予が欲しいと言っているものの、長くて3か月しか待てないという場合、話し合っていても進まない場合に、民事調停が利用されることになります。

これは債権額について争いがある場合も同じで、話し合いで解決できる際は訴訟を行わなくても済むというのが金融業者側の最大のメリットです。

強制執行で給料の差し押さえされそうな方へ

債務名義があることで差し押さえのリスクが高まります。給料を差し押さえられないためにも、回避方法を把握しておきましょう。

債務名義(強制執行)で差し押さえられる可能性のあるモノ

金融業者の債務名義手段がわかったとことで、次にどのような財産が差押えの対象になるのかを確認しておきましょう。

参考:差し押さえにより起こりうるリスクとその対処方法

給料の差し押さえ

まず裁判所から勤めている会社に「差し押さえが決まった」という通知が行きます。まだこれだけで差し押さえが実行されるわけではありませんが、会社は差押分を差引いてから、あなたに給料を支払うことになります。

ただ、差し押さえられても自分の手元には一銭も残らないということはなく、下記の分だけが差し押さえられ、それ以上の差し押さえは禁止されています。

  • 月給44万円以上の場合:33万円を超える分
  • 月給44万円未満の場合:給料の4分の1

このとき、裁判所に破産や個人再生といった債務整理を申し立てれば、差し押さえは回避できますが、申し立てる前に訴訟を起こす業者もあります。

債務整理の準備中に訴状が届いた場合は、すぐに弁護士に相談された方が良いかと思います。

預金口座の差し押さえ

もし銀行に対して債務があり、給与の振込み先に指定されている場合は給与が入り次第、全額債務として相殺されてしまう可能性があります。

この場合は債務名義を取った上での差し押さえではなく、銀行側が取れる通常の債権回収手段となる為、訴訟などを起こす必要もないのです。

対策としては、まず銀行口座の残高をゼロにするか、解約しておいた方がよいでしょう。給与の振込み先や公共料金等の引落し口座も、できれば債務のない銀行の口座に変更しておくことをおすすめします。

家財道具の差し押さえ

テレビ、冷蔵庫、洗濯機などの家電製品の差し押さえは禁止されていますが、同じものが2台以上ある時は1台のみ差し押さえが可能です。

よほど高価なもの以外はまず差し押さえられることはないでしょう。

自動車の差し押さえ

車の差し押さえは名義などの手続きが複雑だったり、駐車場を債権者の方で用意する必要があるなどで新車以外は費用倒れになる可能性が高く、差し押さえられるケースは少ないようです。

しかし、ローン支払い中の自動車などは、ローンが完済するまではローン会社の物になりますので、ローン完済前になら債権者は差押の手続きをすることなく、ただちに返却を求めることができます。注意しましょう。

強制執行で給料の差し押さえされそうな方へ

債務名義があることで差し押さえのリスクが高まります。給料を差し押さえられないためにも、回避方法を把握しておきましょう。

債務名義の時効と延長が認められるケース

金融業者が行える債務名義にも時効が存在します。業者が債務名義を忘れるということはまずないと思いますが、知識として知っておくと良いでしょう。

金融会社から借りた借金の時効は5年

債務者が金融会社から借金をした場合の時効は5年で、時効の期日以降は返済の義務を免れることができますが、下記の2点をクリアしている必要があります。

  • 5年以上返済を1度もしていない
  • 10年以内に債務名義を取得されていない
  • 借金の存在を認めていないこと

もし時効が過ぎても催促されているようでしたら、弁護士や司法書士に依頼して内容証明を送ることでこの問題は解決します。

余程の少額でない限り、お金を貸した業者もこの辺は心得ているので、期日が来ないように色々策を講じてきます。

債務名義が取得された債権の時効は10年

債務名義は、「確定判決」「仮執行宣言付き判決」「仮執行宣言付き支払い督促」「和解調停調書」「公正証書」などがあり、強制執行を行う際に必要なものはすでにお伝えした通りですが、債務名義の時効は10年まで認められています。

5年以内に一度でも業者が債務名義を取得すれば最大15年まで延長

消費者金融や貸金業者といった金融会社からの借金の時効は5年ですが、借金を長年に渡って放置していた場合、債権者が債務名義を取得することでその時効はさらに10年延長されます。

つまり、5年の時効成立寸前に債務名義を取られてしまうと、実質時効は15年まで延びることになります。

債務名義が取得された債権の時効が始まる起算日は?

時効の起算日は、債務名義が取得された期日の翌日から10年です。しかし、時効の起算日にはいくつかの見解があります。

もし金融会社が債務名義を取得したら

最後に、金融会社が債務名義を取得した場合の対応手順をご紹介します。

不服申し立てを行う

もし支払をしているのに強制執行が行われている場合、民事執行法という法律で債務者への送達や第三者の立会いなど、債務者が権利や異議の主張が出来る手続き(不服申立て)があります。

また、強制執行の不服申立にもいくつかの種類があり、「執行異議」または「執行抗告」というものがあります。

執行異議・執行抗告とは?
強制執行をする機関が行う各個の執行処分に対する不服申立手段。たとえば,民事執行法131条によって差押えを禁止されている動産について執行官が差押えを行った場合,あるいは執行停止決定を無視して執行裁判所が,債権の差押命令を発した場合,これらの差押えや差押命令は,いずれも手続的に違法なものとされ,執行異議または執行抗告による救済が認められる。

執行抗告の申し立て方法

  1. 手数料等:印紙1,000円 × 相手方数

  2. 郵便切手:4,500円

  3. 必要書類:抗告状

  4. 添付書類:理由に記載した内容を証明するもの又はその写し

  5. 抗告状の宛先と提出先:裁判所宛て、抗告状を民事執行センター不動産配当係

注意点!
裁判の告知を受けた日から1週間以内に裁判所(民事執行センター)に提出
抗告状に理由の記載をしない場合は、抗告状を提出した日から1週間以内に執行抗告の理由書を裁判所(民事執行センター)に提出。

執行異議の申し立て方法

(1)手数料等印紙:500円×申立人数

(2)郵便切手:1,082円×申立人数

(3)必要書類:A判・横書き・左綴じの申立書正本

(4)添付書類:疎明資料(執行調書等),資格証明書

(5)申立書提出先:次の区分に従って提出

(A)霞が関庁舎民事第21部代替執行係(民事第9部内)

下記に記載する執行官の処分に対する執行異議の申立て

(a)動産執行
  • 動産に対する強制執行
  • 動産に対する担保権実行
(b)非金銭執行
  • 不動産引渡執行
  • 動産引渡執行
  • 代替執行
(c)保全執行
  • 民事保全法上の保全処分の執行
  • 民事執行法上の保全処分の執行
(B)民事執行センター

次に記載する執行官の処分に対する執行異議の申立て

  • (a)現況調査
  • (b)売却の実施

引用:裁判所:執行抗告,執行異議の申立てについて

請求異議の訴えを起こす

請求異議の訴えとは、債務者が債務名義に記載された請求権の存在や内容について異議がある場合、強制執行は許されないとする旨を、債権者を被告として提起する訴訟のことです。

請求異議の訴え|民事執行法35条
・1項:債務名義(第二十二条第二号又は第四号に掲げる債務名義で確定前のものを除く。以下この項において同じ。)に係る請求権の存在又は内容について異議のある債務者は、その債務名義による強制執行の不許を求めるために、請求異議の訴えを提起することができる。裁判以外の債務名義の成立について異議のある債務者も、同様とする。
・2項:確定判決についての異議の事由は、口頭弁論の終結後に生じたものに限る。
・3項:第三十三条第二項及び前条第二項の規定は、第一項の訴えについて準用する。

しかし、請求異議の訴えを提起しても強制執行が必ず止む訳ではありません。その場合、原告である債務者は執行停止等の仮の処分を申し立てることができます(民事執行法36条)。

専門的な知識が必要になるため、この方法を利用しようという場合も、専門家の指示を仰いだ方が無難です。

無効または取り消しを主張する

請求異議を提起した場合でも、強制執行の手続き自体が必ず停止するとは限らないため、債務者の権利を守るため、執行停止などの裁判を得て、正本を裁判所に提出することで執行手続きを停止させる「強制執行の停止」という手段も残されています。(民事執行法第39条)

強制執行の停止:民事執行法第39条

  • 1:強制執行は、次に掲げる文書の提出があつたときは、停止しなければならない。
  • 一:債務名義(執行証書を除く。)若しくは仮執行の宣言を取り消す旨又は強制執行を許さない旨を記載した執行力のある裁判の正本
  • 二:債務名義に係る和解、認諾、調停又は労働審判の効力がないことを宣言する確定判決の正本
  • 三:第22条第二号から第四号の二までに掲げる債務名義が訴えの取下げその他の事由により効力を失ったことを証する調書の正本その他の裁判所書記官の作成した文書
  • 四:強制執行をしない旨又はその申立てを取り下げる旨を記載した裁判上の和解若しくは調停の調書の正本又は労働審判法 (平成16年法律第45号)第21条第四項 の規定により裁判上の和解と同一の効力を有する労働審判の審判書若しくは同法第20条第7項 の調書の正本
  • 五:強制執行を免れるための担保を立てたことを証する文書
  • 六:強制執行の停止及び執行処分の取消しを命ずる旨を記載した裁判の正本
  • 七:強制執行の一時の停止を命ずる旨を記載した裁判の正本
  • 八:債権者が、債務名義の成立後に、弁済を受け、又は弁済の猶予を承諾した旨を記載した文書
  • 2:前項第八号に掲げる文書のうち弁済を受けた旨を記載した文書の提出による強制執行の停止は、4週間に限るものとする。
  • 3:第1項第八号に掲げる文書のうち弁済の猶予を承諾した旨を記載した文書の提出による強制執行の停止は、2回に限り、かつ、通じて6月を超えることができない。

任意整理を行う

弁護士や司法書士などの専門家に依頼して、任意整理を行うという方法があります。任意整理を行うことで、以下のようなメリットがあります。

毎月の返済額を下げる交渉ができる​

任意整理は、主に債権者と利息や返済期日などの交渉を行います。交渉が上手くいけば、過去に多く払いすぎていた利息分の返還や、毎月の返済額の減額などのメリットがあります。

比較的簡単に行える

もう一点、任意整理は裁判所を介さない手続ですので、比較的簡単に個人で行うことも無理ではありません。ただ、交渉事にはなりますので、成功するかどうかは、交渉する人物の腕や債権者の対応次第になる部分はあります。

詳しい内容は下記の記事をご覧ください。

【関連記事】

任意整理の費用相場と任意整理の費用を抑える方法

任意整理のデメリットとメリットの正しい知識まとめ

貸金業者の決算期に一括で支払うと減額出来る

まれな例ではありますが、金融業者の決算期に「これだけならなんとか支払える」という事をいうと、面倒なものを決算前に処理しておきたいという企業の意向とマッチして、大幅な借金減額ができたという事例があります。

専門家に依頼する

何からしていいかわからない場合は、とにかく弁護士や司法書士などの専門家に相談してみる事です。債務名義は複雑な法理用語や専門的な手続きが必要になるものですので、一人で対処するにはかなり荷の重い作業です。

もちろん1人でなんとかできる可能性もありますが、早急な解決のためにも知識の豊富な方にアドバイスを求める事をご検討ください。

まとめ

債務名義の問題に直面した場合は、まずは弁護士に相談することをおすすめします。ベンナビ債務整理(旧:債務整理ナビ)には債務整理を専門とする弁護士を掲載していますので、是非ご活用ください。

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この記事の監修者
弁護士法人プラム綜合法律事務所
梅澤 康二 (第二東京弁護士会)
アンダーソン・毛利・友常法律事務所を経て2014年8月にプラム綜合法律事務所を設立。企業法務から一般民事、刑事事件まで総合的なリーガルサービスを提供している。
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本記事はベンナビ債務整理(旧:債務整理ナビ)を運営する株式会社アシロの編集部が企画・執筆を行いました。 ※ベンナビ債務整理(旧:債務整理ナビ)に掲載される記事は弁護士・司法書士が執筆したものではありません。  本記事の目的及び執筆体制についてはコラム記事ガイドラインをご覧ください。