2020年11月現在、加熱式タバコは13種類が販売されています。紙巻きタバコの2020年4月~6月の売り上げが253億本だったのに対し、紙巻きタバコは98億本と、加熱式タバコの市場占有率は28%まで高まっています。
加熱式タバコの売り上げが増加している背景には、2020年4月から施行された「改正健康増進法」によって喫煙できる場所の制限が増えたほか、紙巻きタバコが健康に与える影響を懸念している人が多くなったからといったことが考えられます。
一般的に、加熱式タバコは紙巻きタバコに比べて健康被害が少ないといったイメージを持たれがちですが、はたして本当なのでしょうか。
この記事では、加熱式タバコの有害性について解説したあと、禁煙したい方や自分の子供に喫煙させたくない方に向けて、禁煙する方法や、喫煙の誘惑を防止するために知っておくべきことを紹介します。
加熱式タバコとは
加熱式タバコとは、タバコ葉を直接または間接的に加熱し、吸引可能な蒸気を発生させるものです。タバコ葉に直接火をつける紙巻きタバコとはことなり、燃焼による煙が発生することはなく灰もでません。タールの量も9割以上が減り、人体への影響が少ないとされています。
加熱式タバコには加熱温度によって、「高温加熱式」と「低温加熱式」の2種類があります。アイコスに代表される高温加熱式は、喫味もニオイも強いという特徴があります。プルームテックに代表される「低温加熱式」では、喫味が弱くなる分、ニオイも少なくなるという特徴を持っています。
加熱式タバコの有害性
直接タバコ葉を燃焼させる紙巻きタバコとは異なり、加熱式タバコではタールや一酸化炭素などの物質は出ず、健康への影響が抑えられていると言われています。また、副流煙もでないため、受動喫煙の被害も少ないというイメージを持つ人も少なくないでしょう。
果たして本当に加熱式タバコには、吸う本人にも周りにいる人にも有害性がないのでしょうか。ここで確認してみましょう。
加熱式タバコの蒸気は受動喫煙に影響を与える?
加熱式タバコでは、喫煙者本人が吸い込む蒸気以外にもエアロゾル(微細な粒子)を発生させることが「アイコス」を使った米国の研究で分かっています。
この研究結果では、「アイコス」が発生させるエアロゾルには、ニコチン・アセトン・メントール・グリセリン・アセトアルデヒド・ジアセチル・アクロレイン・グリシドール・ベンゼンなどの33種類の物質が含まれていることが明らかになりました(※)。
これらの物質のうち、アセトアルデヒドやグリシドールは発がん性物質であり、ジアセチルは呼吸器疾患の一因となっていることが知られています。また、アクロレインには強い毒性があり、アセトンは呼吸器に害を及ぼすことも分かっています。
加熱式タバコが周囲の人に健康被害を与えるかという点については、2020年11月現在、科学的には分かっていません。しかし、上記のようにエアロゾルに健康に悪影響を与える物質が含まれていることは明らかです。加熱式タバコによって、喫煙者の周りにいる人にも健康に悪影響がある可能性は十分に考えられるのです。
加熱式タバコの使用による様々な健康影響
上記で説明した物質は、加熱式タバコの喫煙者本人が吸い込む蒸気にも含まれていることが分かっています。また、これらの物質は紙巻きタバコにも含まれています(※1)。
一般的に加熱式タバコは紙巻きたばこに比べて有害性物質が低いとされていますが、それは「病気になるリスクが低い」と言うことを意味しません。有害物質の量と健康への被害は比例しないのです。有害物質が80%減れば病気になるリスクも80%減ると考えてしまいがちですが、そういうわけではありません(※2)。
つまり、加熱式タバコは紙巻きタバコと同様、肺がん、脳卒中、骨粗しょう症、消化性潰瘍、歯周病、白内障など、様々な健康に対する悪影響を与えることが考えられるのです(※3)。
(※1)参考:
How acute and reversible are the cardiovascular risks of secondhand smoke?
(※2)参考:
e-ヘルスネット|厚生労働省
禁煙するための治療法
禁煙するための治療法には様々なものがありますが、代表的なものとして「禁煙外来」が挙げられるでしょう。
禁煙外来では一般的に、12週間で5回の通院を行い、禁煙をめざします。まずはニコチン依存度のテストや呼気一酸化炭素濃度測定を行い、現在の状態を把握します。その後ニコチン依存度に合わせ、張り薬や飲み薬を処方してもらいます。加えて、楽に禁煙できるためのコツや、看護師によるカウンセリングなど、禁煙に対するアドバイスなど受けます。
なお、2006年4月からは、以下の条件を満たせば健康保険を使って禁煙治療を受けることが可能になっています。
- ニコチン依存症の判定テスト(TDS)が5点以上であること
- 35歳以上の者については、ブリンクマン指数が200以上であるものであること
- ただちに禁煙を始めたいと思っていること
- 禁煙治療を受けることを文書で同意していること
厚生労働省の調査では、5回の禁煙治療を受けることで47.2%の人が9ヶ月後も禁煙を継続できていることが分かっています。少ないと思われるかもしれませんが、自力で取り組んだ場合の成功率は10%程度だと言われていますから、禁煙外来がいかに高い成果を出しているかが理解いただけるかと思います(※)。
(※)参考:ニコチン依存症管理料による禁煙治療の効果等に関する調査 報告書|厚生労働省
喫煙の誘惑を防止するために知っておくべき知識
未成年の子供を持つ方の中には、「将来子供がタバコを吸ってしまったらどうしよう」と心配になっている人も少なくないでしょう。ちょっとしたことが原因であなたの子供がタバコを吸ってしまうということも考えられます。
自分の子供が喫煙するかもしれない場面に遭遇した際、その誘惑を断ち切らせるためには、次の2つのことを子供に伝えておくと良いでしょう。
1つ目は喫煙がもたらす健康被害です。この記事でも紹介した通り、喫煙は肺がんをはじめとして様々な疾病を引き起こすことが分かっています。循環器疾患、呼吸器疾患、糖尿病などあらゆる病気のリスクを高めることを理解しておけば、タバコを吸い始める可能性を低く抑えられるでしょう。
2つ目は、タバコの依存度の高さです。タバコにはニコチンが含まれており、この物質がタバコへの依存を生じさせます。タバコの依存性は非常に強く、ニコチン依存症という病気があるほどです。タバコを一度でも吸い始めてしまうと、辞めるのが困難になることを理解してもらいましょう。
まとめ
加熱式タバコは紙巻きタバコよりも有害性物質が少ないというイメージがあり、年々市場が拡大しています。しかし、喫煙者本人が吸う蒸気や発生するエアロゾルに有害物質が含まれていることが分かっています。
紙巻タバコは循環器疾患、呼吸器疾患、糖尿病などさまざまな病気を引き起こすことが考えられますが、同じ有害物質を含んでいることから、加熱式タバコも健康への悪影響があることが考えられます。
健康的というイメージが先行しがちな加熱式タバコですが、利用には慎重になるべきだといえるでしょう。