借金・貧困の根底にはアルコール依存症? 判断基準をインタビュー

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公開日:2020.10.21 

借金・貧困の根底にはアルコール依存症? 判断基準をインタビュー

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家計が苦しくなったり、借金ができてしまったりする原因の根底に、自分や家族の「アルコール依存症(アルコール使用障害)」がひそんでいるかもしれません。

2013年の調査によると、依存症の疑いのある方は約300万人依存症診断基準に該当した者は約100万人という結果になりました。

また、現時点で依存症まで至らないものの問題がある、または今後問題を抱える可能性がある「ハイリスク飲酒者」は1,000万人にも上ります。

分類

人口(万人)

ハイリスク飲酒者

約1,000

依存症の疑いがある者

約300

依存症診断基準に該当する者

約100

 

ご自身では「一般的」と思っていても、アルコール依存症の疑いがあるかもしれません

では、アルコール依存症とはどのような病気なのか、どのように判断するのかなどについて、武蔵野大学の稗田教授にお話をお伺いしました。

稗田里香教授

稗田 里香(ひえだ りか)

武蔵野大学 人間科学部社会福祉学科 教授 博士(社会福祉学)
特定非営利活動法人ASK副代表

略歴
医療機関(大学病院など)の医療ソーシャルワーカーとして16年間勤務する。
現職。

専門
社会福祉学、ソーシャルワーク、アディクション
厚生労働省アルコール関連問題対策関係者会議委員 など

著書
アルコール依存症者のリカバリーを支援するソーシャルワーク:一般医療機関での実践を目指して』みらい、2017
アルコールソーシャルワーク理論生成研究会(代表稗田里香) 『アルコール依存症者のリカバリーを支援するソーシャルワーク実践ガイド:一般医療機関によるアウトリーチ(早期発見・早期治療)のための支援地図』 ダウンロード可(無料) ※ダウンロードは【こちら

※この記事では、アルコール使用障害をアルコール依存症と表記統一しております。

アルコール依存症とは

ベンナビ債務整理(旧:債務整理ナビ)編集部:

「アルコール依存症」という言葉は耳にしますが、実際にアルコール依存症とは、どのような病気なのでしょうか?

稗田教授:

アルコール依存症とは、お酒などに含まれるエチルアルコール(エタノール)という依存性薬物によって引き起こされる、脳の病気です。

依存性薬物

脳内物質が薬物によって変化し、「やめなきゃいけない」と思っていても脳が欲してしまいます

アルコール依存症の方が禁酒できないのは「だらしない」「意思が弱い」といったように、性格や意思の問題ではありません

そういう特徴を持った病気なのです。

 

ベンナビ債務整理(旧:債務整理ナビ)編集部:

なるほど。エチルアルコールにはどのような特徴や特性があるのでしょうか?

稗田先生:

エチルアルコールを摂取すると、まず酔いをもたらし気持ちよくさせてくれます (体質で感じ方に個人差があります)。

はじめは気持ちよさを求めて摂取するのですが、だんだん体が薬物に慣れてしまって、量を増やさないと効果が得られなくなります

そのため脳がもっと欲しいと指令を出すことによって、飲んではいけないタイミングで飲んでしまったり、周囲に言われてもお酒をやめられなかったりしてしまうのです。

アルコール依存症の症状やリスクとは?

ベンナビ債務整理(旧:債務整理ナビ)編集部:

もしアルコール依存症になった場合、どのような症状やリスクがあるのでしょうか?

 

稗田教授:

すべての方に症状がでるわけではないのですが、お酒が切れた後に手が震えたり、幻聴・幻覚がでたりするなど、さまざまな離脱症状がみられます。

離脱症状のリスクは生活に悪影響を与えるだけでなく、症状を抑えようと余計にお酒がやめられない悪循環を生むことです。

お酒で症状を抑えるのではなく、専門病院で診察や治療をうけることが必要になります。

 

離脱症状(禁断症状)

 

アルコール依存症は死亡リスクの高い病気です。

肝臓や膵臓が病気になってしまうのももちろんですが、脳梗塞や脳出血を引き起こす可能性があります。

また、エチルアルコールは発がん性があるため、お酒が通過する食道などの発がんリスクを高めます。

病死だけではなく、事故死する可能性が他の病気と比べて高いのもアルコール依存症の特徴です。

また、アルコール依存症と自殺は深く関連しており、アルコール依存症・自殺・うつ病は「死のトライアングル」と言われています。

家族関係や仕事にも悪影響を及ぼすと考えると、身体的・精神的・社会的、すべてをおびやかす病気として、アルコール依存症は一人で止めることが難しく治療を要する病気です。

 

アルコール依存症の判断基準とは

ベンナビ債務整理(旧:債務整理ナビ)編集部:

どのような基準でアルコール依存症と判断するのでしょうか?

毎日飲んでいる人もいると思うのですが、そのような人もアルコール依存症に該当するのでしょうか。

 

稗田教授:

毎日飲む人や週末に集中して飲む人など、お酒の飲み方は人それぞれです。

ですので、アルコール依存症を診断する際は頻度や量を問う以上に、実際に起きている症状や行動をもとに判断していきます。

基準の1つに「飲んではいけない状況であっても飲んでしまう」ことが挙げられます。

例えば、肝硬変になって「絶対にお酒は飲まないでください」と言われている状況で、自分でもそれを知っているのに、うまくコントロールできず結局飲んでしまうケースです。

禁止されているのに飲酒してしまい、繰り返し症状を悪化させてしまうのであれば依存症の可能性が高いと言えます。

また「罪悪感を持って飲んでいる」も判断基準のひとつです。

トイレの水の流れが悪いとタンクを開けてみたら、酒瓶がいっぱい出てきたケースもあります。

よくある話で「隠れ酒」と呼ばれますが、トイレのタンクや押し入れにお酒を隠してこっそり飲んでいるのです。

わざわざお酒を隠し、自分でも飲むことに罪悪感を持っている状況であっても、止められないのであれば依存症の疑いがあります。

他にも、周囲に迷惑をかけているかどうかも判断基準のひとつです。

仕事に行けなくなった、体を壊しても飲酒を続け家族関係が悪化した、などが挙げられます。

また、酔った勢いで暴力的になり配偶者や子どもに手をあげているのであれば、依存症の可能性があるかもしれません。

深刻な子どもの虐待問題の背景には、アルコール依存症の存在が指摘されています

 

ベンナビ債務整理(旧:債務整理ナビ)編集部:

私の祖父も朝から飲んでいて、入院した病室でも飲んでいましたね…。ただ、実害がないので「いつものこと」ですんでいました。

 

稗田教授:

そうですね。

飲酒と病気のイメージがつながりにくく、他の病気の様に「○○だから病院に行く」とはなりにくいのです。

専門家が見たときに、先ほど紹介したような飲み方の異常性から判断していくことになります。

最近はアルコール依存症を、「アルコール使用障害」と診断し、軽度・中度・重度の三段階に分け、多量飲酒などアルコール依存症予備軍の段階で「減酒治療」を行い、アルコール依存症の発症を予防するという治療も進められるようになってきました。

一般の人でもできる簡単なチェックリストがありますので、少しでも当てはまるようであれば、症状がこれ以上進行する前に専門の病院へ行くことをおすすめします。

アルコール依存症の判断基準 CAGEテスト

参考:その他のチェックツール|特定営利活動法人ASK

 

アルコール依存症と金銭トラブル

ベンナビ債務整理(旧:債務整理ナビ)編集部:

アルコールに溺れたことにより、金銭トラブルや借金で悩む人もいると思いますが、実際にそのような人は多いのでしょうか?

 

稗田教授:

十年、二十年という長い期間で見たときの金額ですが、アルコール依存症から回復された方がよく「お酒に支払ったお金で家が建つ」という話をしています。

ただ、キャンブル依存症ほど直接大きな額のお金が必要になるわけではないので、急に莫大な借金を抱えるというよりは、飲酒することで間接的にさまざまな問題が発生してしまい、経済面にもマイナスな影響を与えてしまうことはあるかと思います。

この他にも、以前医療ソーシャルワーカーとして勤務していたとき「入院費や治療費の支払が難しい」と相談される方もいました。

入院費用などの支払が困難になっている原因をよく聞いてみると、まだお金のかかる子どもがいるにも関わらず、夫が体を壊しても飲酒をやめられず入退院を繰り返し、最終的に仕事ができなくなってしまったからと訴えるご家族もいました。

また、ツケで飲み歩くこともトラブルのひとつかもしれません。普通はお金がなければ「飲まない」ことを選択できますが、アルコール依存症にり患している場合、飲みたい欲求がコントロールできない(病的飲酒欲求)ため、ツケで何件もお店をまわってしまい、最終的に家族へ取り立てがきてしまった、という話も聞きます。

 

ベンナビ債務整理(旧:債務整理ナビ)編集部:

なるほど…。お酒にお金をつぎ込んで借金を抱えてしまうというより、生活や仕事に影響が出て借金を抱えてしまったり、金銭トラブルになってしまったりするわけですね。

 

稗田教授:

そうですね。もらった給料を1日で飲み代に使い果たしてしまったという例もあります。

ですので、借金や経済難の根底には、アルコール依存症がひそんでいる可能性があります。

ただ、家族も「アルコール依存症」と思っていないケースがほとんどです

借金や経済問題を弁護士や司法書士、役場などへ家族が相談に来た場合、相談を受ける側が、一度問題の根本にアルコール依存症の可能性がないかチェックしてみてください。

 

配偶者や親がアルコール依存症だった場合、家族ができるサポート

ベンナビ債務整理(旧:債務整理ナビ)編集部:

配偶者や親がアルコール依存症かもしれないと思ったときや、アルコール依存症と診断されたとき、家族はどのようなサポートができるのでしょうか?

 

稗田教授:

まずはご家族の方が、「アルコール依存症」という病気を正しく知る必要があります

また、本人のツケなどの借金を肩代わりしている場合、いますぐやめることが重要です。

何とかしてあげたいという気持ちや、取り立てが怖くて解消したいなどの気持ちも十分に理解できます。

しかし、肩代わりすることによって本人は何も問題なく飲み続けられてしまうので、間接的にアルコール依存症の悪化を手助けしてしまっているかもしれません。

つらいと思いますが、本人が病気と向き合うために、家族は忍耐強く見守ることが重要です。優しい愛情ではなくあえて見守る愛情を、強い愛という意味で「タフラブ」と呼んでいます。

ご家族も、病気に巻き込まれていることを知り、病気やご本人との向き合い方について見直し、見守りつつ一緒に回復するという「家族の回復」が必要です。そのために、専門機関や自助グループ(家族)とつながることが重要になります。

 

アルコール依存症から回復する4つのステップ

ベンナビ債務整理(旧:債務整理ナビ)編集部:

恐ろしいアルコール依存症ですが、治療することで治るものなのでしょうか?

稗田教授:

依存症の診断がついたら完全に治癒することはありませんが、回復する病気です

そのため、今後お酒は飲めなくなりますが、一般的な生活を送れるようになります。

回復までの期間や流れには個人差もありますが、基本的には以下の4つのステップで回復に向かうことをイメージされ、階段を一歩一歩着実に上るように回復に取り組むことが重要です。

アルコール依存症回復の流れ

回復への道は、本人の「否認の壁」を打ち破ることから始まります。

アルコール依存症は「否認の病気」と言われるほど、多くの患者が「自分はアルコール依存症ではない」と否定します

ですので、まず家族が専門家に相談することが回復への大きな一歩になります。

本人が認めるまで長い時間を要しますが、相談機関へ通い教育プログラムやカウンセリングを通しながら、「一緒に病気のことを考えましょう」と徐々に否認を解いていきます。

2段階目は、専門医を通し治療により断酒期間を延ばし、断酒会やAA(アルコホーリクス・アノニマス)といった自助グループに参加しつながることです

人によっては、お酒を飲むと一時的に体質が弱くなって悪酔いするようになる「抗酒剤」や脳に直接作用して欲求を抑える減酒薬を専門医に処方してもらい、断酒期間を徐々にのばしていきます。

また、教育プログラムを通して、自分の病気を正しく知り、戦うべき相手は依存症という病気であること意識していきます。

2段階目から1年ほど断酒が続くと「ちょっと飲んでも大丈夫」と気持ちが緩み、多くの人が飲酒してしまいます。その結果、アルコール依存症が再発してしまい、改めて病気と向き合うのが3段階目です

再発により、自分の病気と再び向き合うことで、心の根底にある生きづらさの解消に取り組んでいきます。この取り組みは、自助グループの力を借りるのが1番効果的です

同じような悩みを持つ仲間の話を聞いたり自分の体験談を話したりすることによって、心に引っかかっていた自分の隠したいストーリーをバラバラにし、お酒を飲まなくても生きていけるストーリーに変えます。

4段階目では、お酒を飲む・飲まないが気にならなくなってきて、今後どのように生きていくか考える段階に入ってきます

アルコール依存症によって、仕事を失ってしまった人は、再就職のための就職活動など社会的な活動に取り組んでいく期間です。

また、自分の飲酒によって、今まで傷つけてきた家族や友人との関係を修復したり新しい関係を構築していったりする段階でもあります。

アルコール依存症は、短期間で回復する病気ではありません。再発(再飲酒)率の高い病気でもあるため、再発を繰り返しながら徐々に回復に向かいます。

専門治療、仲間(自助グループ)、家族など周囲の理解(偏見・差別の払しょく)、社会的な回復などが重なり合って「飲みたい」という気持ちをだんだん対処できるようになります

 

まとめ

お酒に含まれる依存性薬物によって引き起こされるアルコール依存症は、未治療のままでいると死に至る可能性が高くなる病気です

しかし、大切なのは、専門家などへの相談、専門治療、自助グループ、社会復帰施設など、回復のための社会資源があり、それらとつながることによって、回復が可能な病気であるという正しい理解です。

「飲む・飲まない」をコントロールできていなかったり、飲酒によって周囲へ迷惑をかけてしまったりするようであれば、一度、最寄りの「精神保健福祉センター」「保健所」「自助グループ」に相談したり、「アルコール専門外来」や「アルコール依存症治療」を受け付けている最寄りの病院で受診してみましょう。

根本的な解決ができていないと、債務整理しても再び借金を背負ってしてしまう可能性があります。逆に、債務整理をするような状況になったときは、回復の社会資源につながるチャンスとなります。

アルコール依存症は回復する病気ですので、まずはご家族の方だけでも相談してみてください。

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本記事はベンナビ債務整理(旧:債務整理ナビ)を運営する株式会社アシロの編集部が企画・執筆を行いました。 ※ベンナビ債務整理(旧:債務整理ナビ)に掲載される記事は弁護士・司法書士が執筆したものではありません。  本記事の目的及び執筆体制についてはコラム記事ガイドラインをご覧ください。

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