ギャンブルに依存しすぎるあまり、いつの間にか生活のほとんどをつぎ込み、大きな借金を抱えてしまう人もいます。
日本では、世界と比較してもギャンブル依存症(正確な名称は「ギャンブル障害」)患者が多いといわれており、2016年に厚生労働省が行った全国調査では、患者数が約3,200人、ギャンブル依存症と疑われる人が約70万人との結果が出ました。
(参考:厚生労働5月号 特集|厚生労働省)
ギャンブル依存症になり、借金を抱えてしまうと、生活が苦しくなるだけではなく、金銭を目的とした犯罪にまで手を染めるきっかけになります。
最近では、郵便局にナイフを所持した男性が立ち入り、現金220万円余りを奪い取る事件や、信用保証協会の職員が計195万円を着服した事件が発生しましたが、どちらにも共通するのは「ギャンブルにのめりこみ、借金があった」という点です。
なぜ借金があるにも関わらずギャンブルをやめられないのか、また家族がギャンブル依存症になってしまった場合、どのようなサポート・支援をすべきなのか、筑波大学の原田隆之教授にお話をお伺いしました。
※なお本記事では、「ギャンブル障害」は「ギャン依存症」に統一して記載しています。
ギャンブル依存症とは
ベンナビ債務整理(旧:債務整理ナビ)編集部:なぜ借金ができてしまっても、ギャンブルを続けてしまうのでしょうか?
原田教授:
ギャンブル依存症とは、一言でいうと、脳の機能が故障しているという病気です。
借金を抱えたり、大変な思いをしたりしているのに「何でそれを続けてしまうのか」は、まさに一番不可解なところだと思いますけど、それがギャンブル依存症の根本的な症状なのです。
脳にもいろいろな部位がありますが、その中でも脳の奥深いところにある、大脳辺縁系(だいのうへんえんけい)という部位の中に報酬系という神経回路があります。
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ここがハイジャックされ乗っ取られることで、機能の障害が起こっている状態です
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ギャンブル依存症になると理性的な考え方ができなくなる?
ベンナビ債務整理(旧:債務整理ナビ)編集部:「ハイジャック」という言葉が出てきましたが、ギャンブル依存症の方は理性的な考えができなくなってしまうのでしょうか…?
原田教授:
いいえ、「こんなことしていたらダメだ」「借金があるのに」ということは、ご本人もわかっています。
ただし、それを理解するのは脳の別の部分です。理性や論理的な判断を司るのは「前頭前野(ぜんとうぜんや)」というおでこのあたりの部位ですね。
ここの部分(前頭前野)では「こんなことしちゃいけない」「もうやめなきゃいけない」などとわかっているものの、理性的な部分と本能的な部分(大脳辺縁系)が喧嘩をして、理性が負けてしまうというのが依存症です。
大脳辺縁系は本能的に『衝動』を司るパワーの強いところですから。
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そして何より怖いのが、依存症が進むと、自分の家族よりも仕事よりも、「どんなことよりもギャンブルが1番大事」という心理状態になってしまうことです
健常者が理性的に考えて、「なぜ?」と考えてしまうのは当たり前なこと。
そもそも、理性的な考えが通用しない、そういう病気なんだっていうのがまずは根本的なところです。
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ベンナビ債務整理(旧:債務整理ナビ)編集部:何を基準に「ギャンブル依存症」だと判断したらよいのでしょうか?
原田教授:
そうですね。高熱やケガのような症状のある身体的な病気とは違い、この病気は外から見ただけだとわからなくて、行動の異常が主な症状です。
ギャンブル依存症と判断する基準はいくつかあります。たとえば、やめようと思ってもやめられないことは判断基準の1つです。
そのような行動異常があることが1番大きな症状で、自分ではコントロールできなくなるということです。
自分で行動の制御ができるのであれば、依存症ではありません。
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また、ギャンブルにのめり込むと、以下のような行動がみられるとされています。
(1) 興奮を得るために、使用金額を増やしてギャンブル等をする。
(2) ギャンブル等をするのを中断したり、中止したりすると落ち着かなくなる、またはイライラする。
(3) ギャンブル等をすることを制限しよう、減らそう、またはやめようとしたが成功しなかったことがある。
(4) しばしばギャンブル等に心を奪われている。
(5) 苦痛の気分のときにギャンブル等をすることが多い。
(6) ギャンブル等の負けを取り戻そうとして別の日にギャンブル等をすることがある。
(7) ギャンブル等へののめり込みを隠すためにウソをつく。
(8) ギャンブル等によって大切な人間関係、仕事、教育、または職業上の機会を危険にさらしたり、失ってしまったりしたことがある。
(9) ギャンブル等によって引き起こした絶望的な経済状態から免れるために、他人にお金を出してくれるよう頼んだことがある。
(出典:アメリカ精神医学会「精神疾患の分類と診断の手引き(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders :
DSM)」(DSM- 5)に即して記載。)
(引用:文部科学省|「ギャンブル等依存症」などを予防するために)
ギャンブルすることに対し「借金返済をするため」と言い訳をしてしまう心理とは
ベンナビ債務整理(旧:債務整理ナビ)編集部:ギャンブル依存症の方の中には「借金を返済するためにやっているんだ」という方もいらっしゃいますが、なぜ言い訳をしてしまうのでしょうか?
原田教授:
ギャンブル依存症の方「借金を減らすためにやる」など言い訳をする人もいますが、これは自分の中に「おかしなことをしている」という自覚があるからです。
理性の部分は壊れていないので、「借金があり立ち行かないのに、ギャンブルがやめられない」という不合理なことを自分でもわかっています。
でも、コントロールができずにギャンブルを続けてしまうことに折り合いをつけないと、自分の中ですわりが悪いので、「借金を減らすためにやるんだ」などの言い訳をして、無意識的に自分で自分を納得させ続けてしまう悪循環に陥ってしまっているのです。
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ベンナビ債務整理(旧:債務整理ナビ)編集部:自分自身でも不合理なことにはお気づきなのですね…。
ギャンブルにはまってしまうのは「ストレスから逃げるため」という理由を聞いたことがあるのですが、これも自分を納得させるための言い訳なのでしょうか?
原田教授:
そうですね。
ただ、ストレスから逃れるためというのは必ずしも嘘ではありません。どんな依存症でも最初は「それが好きだから」やるんですね。
「ギャンブルが好きだからする」
「お酒が好きだから飲む」
ただ、徐々にそのウエイトが小さくなってしまうのです。それに代わって、ストレスから逃げるためという理由が徐々に大きくなってきます。
例えば、新型コロナウイルス感染症による緊急事態宣言、外出自粛が言い渡されていた時に、ギャンブルやパチンコ屋への行列が批判されましたよね。
新型コロナウイルスによる自粛などで、みんなストレスが高まっていました。
ただ一般の人はストレスの晴らし方として、散歩する・子供と遊ぶ・テレビでお笑い番組を見る・歌を歌うなど、いろいろなレパートリーがあります。
しかし、依存症になってしまう人はそのレパートリーがもともと少ない、あるいは、もともとあったけれどもなくなってしまった人がほとんどです。
そのため、「自分にはギャンブルしかない」と思い込んでギャンブルを続ける中で、「借金返済するため」と同様に「ストレスを晴らす」ということも言い訳になっていきます。
ギャンブル依存症になると、ストレスを晴らす手段がギャンブルしか考えられなくなってしまうのです。
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ギャンブル依存者に対し家族がすべきサポート・支援
ベンナビ債務整理(旧:債務整理ナビ)編集部:配偶者や親がギャンブル依存症になってしまった場合、家族はどの様にサポート・支援すべきなのでしょうか?
原田教授:
まず一番大事なのは、「借金のしりぬぐいをしない」こと。
「今度こそ立ち直ってもらおう」「借金がなくなれば借金を減らすためにギャンブルをすることもないだろう」など、良かれと思ってしりぬぐいをするご家族も多いと思います。
しかし、すでにギャンブルによって脳が乗っ取られている状況ですので、借金がなくなりスッキリしたら、またやってしまうでしょう。
借金のしりぬぐいをするのは、まさにギャンブル依存症に火に油を注ぐようなことになってしまいますから、絶対にやってはいけません。
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ベンナビ債務整理(旧:債務整理ナビ)編集部:借金のしりぬぐいは火に油…。ではどうすればいいのでしょうか?
原田教授:
どうすればいいかというと、やっぱり専門家に相談することです。
ギャンブル依存症は「病気」なのですから、家族がどれだけ頑張っても、本人がどれだけ反省しても、「自分がそれをやめよう」とか「減らそう」とか思ってもできないのです。
家族や本人ではどうにもできないことをきちんと認識し、専門家に相談するのが最善の方法です。
ただ、根本的にギャンブルが好きでやっているわけですから、「好きなギャンブルを取り上げられては困る」などという恐怖心もあって、本人はなかなか病院に行きたがらないでしょう。
その場合、まずご家族がお一人でもいいから受診し、いろいろな対応の仕方を聞くことが、大事な一歩になると思います。
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「ギャンブル依存ではない」と受診等を拒否された場合の対処法
ベンナビ債務整理(旧:債務整理ナビ)編集部:「俺(私)はギャンブル依存症じゃない」とかたくなに否定したり、受診や自助グループへの参加を拒否したりする人もいると思うのですが、そういった方を無理やり連れて行くのも効果的なのでしょうか?
原田教授:
無理に病院へ連れて行くことも、効果がないわけではありません。しかし、継続して通院してくれるかは専門家のテクニックなどにもよりますので、なかなか難しいでしょう。
ご家族の方も、配偶者や親がギャンブル依存症になってしまい、いっぱいいっぱいで大変な状況だと思うのですが、本人にも色々苦しい心の内とか、やめたいという気持ちはどこかにあるはずです。
「やめたい・やめられない」でがんじがらめになり、どうしようもないところに、「どうしてそんなにギャンブルが大事なんだ」「家族よりも大事なのか」と説得したり脅したりせず、まずは本人の苦しい気持ちを聞いてあげるのが重要です。
「それはよくわかった。あなたがつらいのもわかったし、私もつらいから、ちょっと専門家に相談してみない?」という形で、まず相手に心を開いて一切の批判も説得も脅しもしないで、話を聞きながら、共感して、相談に行くことを促してみてください。
家族自身も苦しい思いをしていると、そのような接し方は難しいと思うのですが、専門家のもとへ相談に行くと、おそらくそうした方法や接し方をアドバイスされるのではないのかなと思います。
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専門家は、「なんとか一緒に解決していきませんか」と依存症患者の話を聞きながら治療に乗せるテクニックを持っています。
同じようにするのは難しいとは思いますが、家族も批判や非難はぐっとこらえて、まずは相手の気持ちを聞く、そして一旦受け入れるという姿勢がとても大切です。
また、最終手段としては、「これで借金がこんなになったら離婚するよ」「これ以上やめないのであれば離婚するよ」などという風に、脅したりすかしたりして相談機関に連れて行くのもありかと思います。
ただ、あくまで手を尽くした後の最終手段となります。
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ギャンブル依存症はどこに相談すべきか
ベンナビ債務整理(旧:債務整理ナビ)編集部:ギャンブル依存症について相談する場合、自助グループと病院、どちらに相談すればいいのでしょうか。
原田教授:
両方に相談したほうがいいですね。
しかし、いきなり精神科となると、本人も抵抗があるでしょう。
まずはNPOや地域の自助グループ、家族の会に参加してみてください。そのような団体は、同じ問題を抱えている人たちがお互いに助け合いながら解決を目指しているため、いきなり精神科に行くよりは敷居が低いかもしれません。
また、団体のメンバーから「自分もここだけではなくて、病院にも行っている」という話を聞けば、精神科への抵抗感も下がるかもしれません。
団体のメンバーからアドバイスやサポートを受けることにより、病院に行かなくとも解決することもあるでしょう。
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まとめ
自分でやめたい、と思っていてもやめられないギャンブル依存症。
配偶者、親、友人などあなたの大切な人が依存症になってしまった場合、まず「脳の病気」であることを認識した上で、責めたりせず、自分から心を開き優しく病院の受診や自助グループへの参加を促してあげましょう。
また、どのように接すればいいのか、やめさせればいいのかわからない人は、まず自分だけで家族の会や専門家のところに行き、相談してみましょう。
同じ悩みを抱えている人に相談すれば、新しい見方や接し方が見つかるかもしれません。
もし、借金返済に追われ生活が苦しい場合、一人で抱え込まずに借金問題に注力している弁護士もしくは司法書士に相談してみましょう。
以下のような債務整理の方法もあります。
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自分の経済状況に合う方法で、無理なく返済することをご検討ください。